「今日から新しい家族よ」とママに紹介されたのは僕より遥かに小さな赤ちゃん。
初めて見る赤ちゃんは守ってあげなきゃと思うほど。ママが「あなたの弟になるのよ」と赤ちゃんの顔を見せてきた。まだ小さな手足を懸命に動かして、生きている。
――弟。ぼくの弟。
その言葉が身体中駆け巡った。
「お兄ちゃんになるんだからな」とパパのゴツゴツした大きな手が僕の頭を撫でる。その言葉がまるで魔法の言葉のように聞こえて僕は使命感のようなものを感じた。
――この子を守らなきゃ。
そんなことが脳裏によぎる。まだ目の開かない小さな赤ちゃん。ぼくがおにいちゃんだよと頬をちょっとつつくと目が開いた。まだ認識できてないと思うけど弟は確かにぼくを見て笑った。
今日からぼくはお兄ちゃんだ。
弟の面倒をみるのは大変だった。まだ起き上がることの出来ない弟は泣いて知らせる。ご飯もトイレもすべて泣き始めてから知らせる。そのたびにママは「はいはい、待ってねー」と家事をしている手を止める。
そして嬉しそうに弟のお世話をするんだ。ぼくのことはあまりみずに。
はいはいするようになると危険度が増した。落ちている小さなモノを口に入れようとしちゃうから気をつけなきゃいけない。ぼくのおもちゃは高いところに閉まってママにとってもらう。目を離した隙に、なんてこともあった。ダメだよ、とおもちゃをとりあげてしまうと泣かれる。いつも怒られるのはぼく。でもいいんだ、弟が何もなかったから。
ひとりでたてるようになった頃、弟は少しずつ話せるようになってきた。ぼくのこともちゃんと分かるみたい。でも、まだまだ子供だからぼくのおもちゃを壊される。お気に入りのぬいぐるみや、ボール。ママにもらった毛布の上におしっこされたりしたけれどぼくは怒らなかった。仕方ないんだとパパが言ったから。
弟が汚した壁の落書きや床の汚れはぼくのせいにされる。でも、弟が怒られるよりはいいや。たとえそれがぼくのせいにされても。だってぼくはお兄ちゃんだから。弟はぼくが守るんだ。
でも、でもね。お兄ちゃんでも泣きたい時あるんだよ?ママとパパに言ったらきっと「お兄ちゃんでしょ」と言われるから泣かないようにしてるんだ。強くて優しいお兄ちゃんでいたいから。
泣きたい時はね、クローゼットの中で泣くんだ。誰にもバレないように。いつもにこにこできるように。ぼくは涙を見せちゃいけないから。
弟が幼稚園に行った時、同じ年の子からいじめられたと聞いた。ぼくは許せなくて弟と一緒に遊びに行った時、その子に怒ったんだ。ぼくの弟をいじめるな!って。そしたら相手のお母さんが怒って家に来た。
ママはしきりに謝っていた。ごめんなさい、すみませんを何度も。
そして帰った後にぼくが怒られた。よそ様に迷惑かけちゃダメでしょって。だってあの子がぼくの弟をいじめてたんだ。ぼくはお兄ちゃんだから弟を守ったんだよ。
ねえ、パパ、ママ。
パパとママの家族は弟だけじゃないでしょ?ぼくも家族でしょ?ぼくもね、まだ子供なんだよ?甘えたい年頃なんだよ?
ぼくのことも気にしてほしいんだよ。
パパとママはいつも「えらいね」「すごい」と褒めてくれる。
でも、でもね。
ぼくは、ほめてくれるより、ちゃんとぼくをみてほしいんだ。
わがままは言わないから、ぼくも気にかけて。
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ちょっと犬の気持ちを表そうとしたら、長男の気持ちになってしまった……。