『怪人の隠れ家(二幕)~エリック~』

クリスティーヌ、分かってほしい…。こんなに強引に君を連れてくるつもりじゃなかった…。
あの時…奴等の行動は全て想定内だった…。君の様子…周囲の空気から何かが起こることは十分理解していた…。でも…想定外だったのは……君が私のマスクを外した事…その時に飛び込んできた…君の泣き出しそうな寂しげな表情………。自分でも驚く程、動揺してしまったんだ…。だって…あの時、君がマスクを外し…それを合図に私が撃たれれば…君はもう何も怖がる事なく…自由になれたんだから…。それなのに…喜ぶどころか……切ないほどの、瞳を潤ませた…あの表情………。そんな瞳で見られるだなんて、思ってもみなかったから………。
確かに最後は君をここに連れてこようと思ってはた…。
でも…あの表情を見たら…今まで、私にあんな瞳…表情を向けてくれてくれた人なんていなかったから…。私が、この姿と…マスクと共に与えられたもの……。憎悪…絶望…心の閉ざし方………。
それなのに…。ほら……思った通り…やはり来たか若僧が……私の宝物を…誰が渡すものか…「私のクリスティーヌ」を……
ほう…私が悪魔だと……。命を粗末にする若僧が…さぁ…どうしてやろうか…。面白い…命をかけてまで彼女を守ろうと必死だな………。自分の状況も考えず「返せ」だと…しかも、よくもぬけぬけと「情け知らず」だと……。「情け」などかけられた覚えなんてないぞ…「情け知らず」なんてよくも言えたもんだな…素直に引き返せばいいものを……。
そんなに死に急ぎたいのなら入れてやろう……。
彼女と私の為に…お前にはこれをやろう……。さぁ…どうする、クリスティーヌ……。死にたがってる、こいつの命は君次第だ……。利口な君なら分かるだろう…どうすればいいのか…。
そうか…そんなに悲しいのか…私が憎いか…。だが…よく考えてみたまえ…私の事を選ばずして奴の命はないんだと…。
では…教えてやろう…君には選ぶ余地が無いことを…。「望み」という事が無いことを…。君が私を選ぶしか奴の命がないことを…。もちろん…「二人で逃げ出せない」事を…
彼女なら…こんなことをしなくても…私を選ぶはず…。私には…彼女しかいない事を…十分知っているんだから…。そうだろう…クリスティーヌ……。
他の奴等と…君まで同じだったのか……。君まで…。さぁ…選べ……選んで…。そんな気休めの言葉なんて……同情なんていらない…。ただ…私が欲しいのは…ただひとつ…君の……。
一体……。君は…何をしているんだ。私の…この私にキスを…。嫌じゃないのか……。君の手から…唇から……あたたかさが伝わる……。本当に…なんて…あたたかいんだ。なんて素晴らしいんだ……。
そして…なんて…やさしい…やすらぎ…。こんなことを…私には…。クリスティーヌ…できるのなら…君をこのまま抱き締めてしまいたい…。抱きしめ…君のすべてを感じたい…。いや…そんな事をしてしまうと…。分かってる…。ありがとう…。本当に…私に……人らしい扱いを…。私にもこんな感情があったなんて…。溢れ出してくるだなんて……。
早く…君から離れなくては…。手離せなくなってしまう…。あぁ…狂ってしまいそうだ…。
早く二人で出ていってくれ…。私の気が変わらないうちに…。早く…一人にさせてくれ……。お願いだ…。人らしい心がある内に…。
ここでの事は秘密にしてくれないか…。たのむ…それだけでいい…。さぁ…早く…二人で…。たのむから…お願いだ…。君たちに何かしてしまわないうちに…。早く…行ってくれ…。
「マスカレード…仮面に隠れて…」仮面と共に顔を…心を閉ざし…生きてきた…。憎悪と闇しかなかった人生…。
そんな私に……。クリスティーヌ…君は心に光を与えてくれた…。君の声…姿…すべてが…私の…。できる事なら…戻って来ておくれ…。もう一度だけ…声を…ぬくもりを…。
クリスティーヌ……愛している…。心から…君を…。
この指輪…があるかぎり…。君への愛…。心に触れてくれたこと……。胸の奥へ…大切に…大切に……。

ブログ『9/16(オペラ座の怪人)』の続きです