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「買う気なし」の判定を受けた桜子が店主に楽譜を取り上げられた直後、店内に達彦さんが現れます。店主はすかさず「新譜が入ってますよ」とさっきの楽譜を差し出し、嬉しそうにそれを眺める達彦と羨ましそうに覗き見る桜子・・・

 

さて、この場面で達彦は何故桜子には許されなかった「立ち読み」をむしろ推奨されるくらいの勢いで行うことができたのでしょうか。

「金持ちだからだろ!」と言われたらそりゃそうなのですが、それ(山長という大店の跡取り息子であること)に加えて、やはり達彦が八高(旧制第八高等学校)生というステイタスを具えていたことも大きかった。こんな社会的信用のメガ盛りパックみたいな人、当時の岡崎にそうそういるもんじゃないでしょうからね。

 

前回引用した立ち読みの定義について、「購入意思が不明な状態」とありましたが、その観点でいえば、毎回とは言わずとも達彦に購入の意思(無論その資力も)は明確。そういう「お客様」であるがゆえに、このレコード屋にしても、その近くにあって達彦が時々寄っていた古本屋にしても、こうした購入とセットになっている行為については、黙認どころか積極的に推奨するような態度をとるわけです。

まして、そういう場合の読み方というのはじっくりというよりも一部分を「試し読み」するような形が大半でしょうから、「十分享受」という点からも立ち読み要件を外れることになります。

 

そんなわけで、店主もせっかくの新譜がお得意様の手に渡るより早く雑に扱われちゃかなわない(買うなら話は別だけど)ということで、桜子にああした態度を取ったのだろうというのが、前回の末尾で記した「事情」の推察でした。

もっとも、この時の達彦は「(今回の商品とは別の)楽譜を貸してほしい」という桜子の頼みを聞き届け、自宅へ走り去ってしまったので、新譜を買ってもらうことはできずじまい。店主の桜子に対する心象は一層悪化したものと思われます(苦笑)

『純情きらり』第13回(第3週)、桜子が新譜を求めに訪れたレコード屋で、買う気がないと分かるや、店主にその本を取り上げられるというシーンがありました。

 

この場合は本屋ではありませんが、買う気がない客をハタキで追い払う(今回の場合は取り上げた本にハタキをかけるという描写でしたが)というのは、立ち読みに伴う典型的なミームといえるでしょう。

 

小林昌樹『立ち読みの歴史』(ハヤカワ新書 2025年)という本では、そうしたミームの起こりはもちろん、立ち読みという日本特有の文化や読書環境のあり方が、いかにして誕生したのかを詳細に検証しています。

 

本書において著者の小林氏は、「立ち読み」の定義を「短時間で享受できるコンテンツを持つ冊子(中略)を開架から直接自由に選び取って、書店内か店頭で十分享受する行為またはその習慣」とした上で、「店側から見て購入意思が不明な状態であることが重要」と加えています。

 

桜子の場合、あの分厚さの楽譜ですから、必ずしも「十分享受」しようとした(=立ち読みしようとした)わけではありません。ただ、裏表紙で値段を確認した際、顔をしかめながら「高っ…」と声に出してしまう天性の悪癖のせいで「購入意思なし」と判断されてしまったのが運の尽きだったのでしょう。

本書にも、黙読の有無が立ち読みを黙認するか否かの分水嶺にあたる(声に出した時点で追い払われる)旨を記しつつ、立ち読み習俗が黙読訓練になっていたという興味深い指摘がなされています。

 

もっとも、たったあれだけの時間、目を通す程度の閲覧具合で追い払おうとする店主の行動は行き過ぎともいえそうですよね。

ただ、そこに関しても、日本語にはもう一つ、ハナから明確に購入意思がないことを指す「冷やかし」という便利な言葉もありまして(これについても、立ち読みの違い等、本書において示されています)、どちらかといえばそっちだと看做されてしまったケースなのかなと。

そんな水を桜子に向けると、本人はきっと「ちゃんと買うつもりはあった!」と怒るはずですが、この場合に重要なのは店側の視点であって、桜子側の事情に関心は払われないのです。

 

以上、桜子贔屓の身としては腹立たしい限りなれど、店主には店主の事情があったのだろうというのが今回の結論でした。

そして、事情といえば、彼にはもう一つその本に軽々しく触れてもらいたくはない理由がありまして・・・次回はそんな話をしてみます。

 

 

 

小林昌樹『立ち読みの歴史』(ハヤカワ新書)

 

総評的なことは別にやりません。1個1個のネタについてだけ。

 

・令和ロマン

「りんたろうにしんにょう」のくだりとかでアクロバティックな方向に行くのかと思いきや、渡邉という俗を持ち出してドカンと笑わせ、そこからは息もつかせぬあるある街道。

個人的に、出席番号順は時々逆行するから渡邉さんは必ずしも最強じゃないと思うし、仮に後ろから来ても一定の余裕があるな行・は行あたりが一番旨いんじゃないかと思うんだけど、もっと長尺のネタならその辺も取り込んでしまいそうなくらいの技術だった。

 

・ヤーレンズ

石川啄木とかゲバラ(=チェッ)とか、あの辺のボケをツッコミがちゃんと理解してボケた側が損しないところが、ともこさんの言う「しょうもあった」部分なのかなあと。順番が悪かったのも、それゆえ点数も低かったのは確かだけど、どっちにしても決勝にいくほどのインパクトはなかったかなあ。

 

・真空ジェシカ

実力者のヤーレンズが伸びずに、次もとなるとズルズル行きかねないところで真空ジェシカを引けちゃうのが阿部さんの最後まで半端なかったところ。

ちゃんと彼らしいネタで「これくらいはやるだろう」というラインを超えてきたのが見事。「個人経営のチェーン店」「ゆーじという人」「仮想中華」と要所要所に超級の爆弾が仕込まれて、大きな笑いの起きない時間を最小限に留めていた(下ネタはやめとけと思ったけどw)。

全体としてのつながりもちゃんとあったとは思うんだけど、一部審査員を納得させる水準になかったことが令和ロマン超えを僅かに阻んだのは惜しまれる。

 

・マユリカ

面白かったけど、確かに真空ジェシカとワンセットにされてしまうと・・・ではあるのかなあ。下ネタの位置もより根幹に近かったし(汗)

『上海ハニー』は思ったよりも笑いが取れていたあたり、出場者世代と観客層の世代(筆者の世代でもある)が噛み合った結果なのかもしれないけど、審査員にはいまいち響かなかったかなあ。

余談ながら、校歌のメロディが六甲おろしっぽかったのと、コーヒーばっかり飲んでるクラスメイトの名前が湯舟だったところに阪神愛を感じましたw

 

・ダイタク

正統派のちゃんと笑える漫才なんだけど、他と比べられると点数はつけづらいのかなあ・・・と結果を眺めていたら、審査員の中のどなかたも同じ趣旨を述べられていた。

去年の敗者復活みたく双子に第三者を交える方が、より勝ちは狙いやすいのかも。とはいえ、最後の最後に決勝まで来てくれて嬉しかった。「THE SECOND」も期待してます!

 

・ジョックロック

ツッコミとボケというよりは、フリとツッコミ。笑いの起きない間が怖くないところは尊敬するけど、肝腎の大声ツッコミがドカンドカンとまではいかなかった。次のフリに入ったところでも余韻が続くくらいじゃないと厳しいんだろうなと。

ジョックロックがかかって次の打者(コンビ)がヒットするという引き立て役になってしまった。。

 

・バッテリィズ

去年の敗者復活でも面白かったけど、ついに爆発。

エースさんがもう、最初出てきてなんの変哲もない挨拶をするところからアホだと明かされるまでの意外性のなさが鮮やかすぎて。

ネタとしては、ヤーレンズのところで書いた裏返しというか、「分かってもらえない苦労」がちゃんと織り込まれていたのが笑いどころ。

人に何かを教えるということはかほどに難しい、予想もしなかった方向からボールが飛んできて対応できないという、ある種のあるあるが見事な感性とともに結実していた。山内さんの評論通り「そうなんだけど気付かんかった」ですよね。

ホント細そうすぎって何なん(笑)

 

・ママタルト

大鶴さんの受け身が白鵬に投げられたときの琴奨菊くらい上手くてずっと笑ってました。

それはともかく、もっと受けて良かったと思うんですけど、意外に大きな笑いが2回くらいしかなくて、特にツッコミが刺さらなかった印象。何ならせり上がりが一番受けてたかもしれないw

 

・エバース

心配と対策、それぞれに付された一つ一つのフレーズがどれも的確で痒いところに届く粒立ち豊かなネタ。納得感とともに時々大きな笑いを呼べる材料も仕込まれていて、さすがは優勝候補という完成度でした。

3位に1点届かなかったのは、町田さんが有能すぎ、人間的に出来すぎていてアホな立ち回りを一つもしないところに一抹のモヤモヤがあるのかなあ。。佐々木さんの心配が、もっとぶっ飛んでいた方が良かったとも言えるのか。

ともこさんが2番目に低い点数しかつけなかったのも一貫してるといえばしてるんですよね。

 

・トム・ブラウン

大吉さんと塙さんの95点が嬉しかった。採点者それぞれの基準が一番ハッキリ出た、最後にやっと出たという感じもして非常に良かったのではないでしょうか。

ともこさん的見方を想像するなら、トム・ブラウンのネタってしょうもないようでいて割と複雑な構成をしてるので、入り込みにくいところがあったのかなあ。塙さんも言ってたけど、ヨネダ2000とも確かに似ている部分がありますね。

 

最終決戦

真空ジェシカ

ミキティファンとしては、この大舞台で「智春さ~ん!」が聞けてそれだけで満足!

個人的には川北さん側の「ちゃんと手を上げて指摘した方が良いと思うよ。演奏中なんだから」というフリに笑ってしまった。そりゃそう(あんな野次みたいに言われたら怒るんだろう)だけど、あれだけの大立ち回りをする動機として地味すぎないかと。

バーサーカー化しているように見えて頭は冷静なブロリーを思い出しましたw

 

令和ロマン

トップバッターの1本目より有利になるのは明らかでしたが、ちゃんと誰が見ても分かるくらいにより強いネタで黙らせた。

あれだけの短い時間で個々の顔もしっかり見えて、まるで「あっぱれ戦国大合戦」くらいのスケール感でしたね。

あの残り時間で戦争突入して着地させちゃうテクニックとかもお化けクラスとしかいいようがない。これまた尺が長けりゃ熊猿を倒す歌の後に(あるいは合間合間に)まだまだストーリーを無理なく繋げられそうですよね。とにかく、納得の優勝でした。

 

バッテリィズ

ミスはなかったと思います。同じタイプのネタで・・・というのも、それで優勝したコンビが過去にはいますからね。

ただ、ミルクボーイが1本目を経て、「分からへんのがあるんでしょう?」でドッと笑わせたような小さい工夫はあっても良かったかもしれない。ほぼほぼ1本目のテンポで、1本目と同じような笑いの起き方のまま推移した感はありました。

あとは、1本目で石田さんが「どこから飛んでくるか分からない」と評していた意外性が、2本目の場合、途中から「墓」を連想させて先に笑わせる形に変化していたので、もちろん、良し悪しではあるけど、今回の場合はより輝きにくい方へ行きやすかったのかも。

その中でも「もう誰も死なんといて!」が出てくるあたりは強いなあと思ったし、3票入ったことは大きな勲章。

素材は山ほどあるけど実はチョイスが難しいタイプの漫才だと思うので、来年まずは決勝まで来られるか楽しみにしています。