今日の新書は石坂泰章著「巨大アートビジネスの裏側」文春新書。
著者の石坂氏は財界総理と言われた石坂泰三のお孫さんで、三菱商事からサザビーズ・ジャパンの代表を経て独立したアートビジネスのプロ。世界の美術市場やアートビジネスに関心のある人にはとても面白い本だ。
但し、ここに書かれているのは100万円や10万円以下のアートを楽しむ市民派コレクターのことではなく、数億円というお金をすぐにでも用意できるような1%のなかの1%のセレブである大企業や有名俳優、超お金持ちを相手にしたアートビジネスで、いわばアートの機関投資家の世界だという前提で読んでもらいたい。
このようなセレブたちのためにアートファンド、プライベートバンク、ファミリーオフィスなどのプロのコンサルタントも存在する。石坂氏によると、日本では文化・アートというと「草食系ビジネス」と捉える向きが多いが、海外でのアートは生き馬の目を抜く「肉食系ビジネス」であるという。最近日本の作家も何かとグローバルにあこがれるが、このようなアートビジネスの世界で通用するのは村上、草間などごく一部である。日本のプロ野球にも入れないような選手がメジャーリーグにあこがれるような世界ではない。
本書に書かれているアメリカの大コレクターの中には単に投資目的だけでなく美術館を作ったり、作品を寄贈する他、美術品の売買益を各種社会貢献の財団に寄付するような人もいる。そんな人の子弟や将来の有望寄贈者のために美術館が「コレクター育成プログラム」を充実しているなど、税制・寄付・教育などアートコレクター拡大のためのインフラが整っており、日本の後進性やガラパゴス化が際立つ。