彼の会社も夏休みだった。

もとより有給を溜め込んでいる男が、今回、何連休取れたのかなんて、香住には知りようがなかった。

ただの、知り合い。

しかも、一方的に知っているといった方が正しいのかもしれない。

香住の存在が彼の記憶のなかに存在するのかなんて、確かめてみないと分からない。



香住にとって彼は、行きつけの飲み屋でよく会う好みのサラリーマンだ。

最初は、どっかで会ったことのある人。

そこから前もこの店であった人。

そして、よく会う人。

顔は好みじゃない。

でも、しゃべり方、考え方、段々好きな部分が増えていった。

新しいお酒を頼むとき、「サワーにしておけば?」でも、「もう、お酒飲むのやめな」でもなく、「サワーにしておきなさい」っていって止める言葉の使い回しも好き。

好きな部分がちょっとずつ増えて、片想いの相手になった。



好きって気持ちがマニアックな域に入っている自覚もあるし、
彼の動向をチェックしている自分自身にキモいって思っているし、
なにより、彼が閉店までお店に来ないと本気で凹んでいる自分にドン引きする。

ラインではしっかりお友だちな癖に、デートに誘うどころか、次お店に来る日すら聞き出す度胸も何もない。



彼の会社のホームページは、彼の動向が筒抜けだ。

8月の最後の日曜日なら確実に大阪にいる。

そして、その次の週には広島に出張。

その次の週は九州、その次は北陸。



土曜日、お店来るかなー?

ここで会えなかったら、次がいつになるか、正直予想もつかない。

うだうだと彼が来そうな日に予想をたてる。



夏休み。

子供のときはあんなに楽しみだった夏休み。

仕事をはじめてからは、帰省だの旅行だので、確実に相手に会えないことが確定する夏休み。



ふぅ、と、香住は息を吐いた。