突然ですが、新進気鋭の作家「FUKUSUKE」先生が新作短編小説を発表されましたので、この場所を借りて発表したいと思います。あの、馬鹿な事言ってると思われてると思いますが、ズバリその通りです。ええ。
タイトル「桜の木の下で」
「この想いを伝えよう」
夜が明け始めて、世界がひんやりとした蒼き色に染まる早朝。
いつにもなく早い時間に目覚めてしまった僕は、布団の中で思案に更けていた。ある感情が行ったり来たりと、定まる事なく意識の中を右往左往していた。
しかし、とにかく僕の中で結論が出た。宙ぶらりんにしておくわけにはいかない。結果はどうであれ、前に進まなければならない。
これが僕が早朝に、自分の意志とは無関係に導きだした結論だ。
ミー子にこの想いを今日伝えよう。それ以上でも、それ以下でもない。結果がどうなるかなんてわからないけど、行き場のない感情を抱えながら生きていけるほど僕は器用じゃない
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大学と駅との途中で、桜の木が並び立つ通りへ差し掛かる。幹の凹凸に歴史を感じさせる樹木達はしかるべき時がくると、それは美しい花を咲かせる。
ある人はそれをみて花見で酒を呑む話をし、ある人は森山直太朗の「さくら」を口ずさむ。
しかし僕にとっては、この桜はKraftWorkのEXPO2000の幾何学的なシーケンスを連想させる。
唯一無二の存在として鳴り響く音に、僕はミー子の姿を照らし併せていた。だからこそ、この想いを伝える場所をここに決めたのだ。
桜が咲くにはまだ程遠いけど、今日がミー子と会える最後なのかも知れないのだから。
ミー子との出会いは大学2年の時だった。
一般教養の心理学の授業。同じ学科やサークルの友人と全く被る事のないコマのそれを受講する事になってしまった(アルバイトのシフトの関係だった)この授業は僕にとって、退屈この上ない、言わば、人生の無駄遣いの時だった。
教授は我々生徒に対して一切の関心というものを有していないに思える程、淡々と、ただノルマを熟すように、ぶつぶつと何かを呟いている
。退屈の極みに揺られ、ノートを機械的に写していたところ、遅刻して教室に入ってきたのがミー子だった。調度、僕の隣が空いていたので、そこに座ったミー子は屈託のない表情で
「ノート・・・写させてもらっていい?」
と、声をかけてきた。x-girlの服に身を包む今風の明るい髪色の女の子。人あたりの良い、明るい印象を受けた僕は、特に断る理由もなかったので、ノートをミー子の方に寄せた。
解放を告げるチャイムが鳴り響き、「ふぅ」と一息ついた僕にミー子が礼を言ってきた。少し話してみたのだが、お互いこの授業には友人がいないという事がわかった。
ちなみにミー子の本名は美恵子と言ったが、彼女はそれで呼ばれるのをひどく嫌った。
僕が(多少儀礼的だったかもしれないが)ミー子の服を褒めたら、本気で照れているようだった。聞いてみると、高校までは部活で手一杯でファッションは二の次で、大学に入ってようやく着たい服装ができるようになったのだが、いまだに自分の着こなしに自信が持てていなかったそうだ。
「褒められたのなんて初めてだよ」
顔を赤らめてはにかむミー子と僕は一気に打ち解け、そして次の講義から席を並べるようになった。そして、 拷問とさえ表現された心理学の授業はミー子と共有する時間となった。
僕は法学部、ミー子は経済学部とお互い別々の学部に所属するので、この講義以外に講堂で共有する時間は存在せず、更に、僕はサッカーサークル、ミー子はテニスサークルと別々のサークルに属しており、共通の友人というのは存在しない。
おまけに、僕は国家資格を在学中に取得するという目標を掲げていたため、夜にのんびりと電話をしているゆとりもほとんどなかった。夜は参考書とにらめっこしながら過ごす日々。しかし、思いついたように、たまにかかってくるミー子からの電話は、僕にとってはリラックスタイムそのものだった。
ちなみに電話番号とメアドは出会ってすぐに交換したのだが、休講の連絡などは殆ど僕から送り、それ以外の雑談はミー子からかかってくるのが慣例であった。取り立てて用が無い限り、僕は人に電話をするタイプではない。そのためにミー子にも迷惑をかけていたという自負はあった。
大学の最寄り駅からお互い逆方向に住んでいる事もあって、心理学の講義を終えて、駅までの帰り道以外では、外で一緒にいる事はまずなかったのだが、ただ1度だけ外で、偶然だが会った事がある。
僕は高校時代からの親友と月に1度だが、お決まりのアイリッシュパブへ飲みに行く事を決まり事としていた。
最初は何も考えずに飛び込んだのだが、フィッシュ&チップスがやたら美味い店で僕らは一気にその店が気に入ったのだ。
しかし、その日は運悪く満席となっており、諦めて、近くにあった居酒屋へ飛び込みビールを飲んでいたところにミー子が友人を連れてその店にやってきたのだ。
お互いにかなりびっくりしつつも、即席の飲み会がここで始まった。
Apeのシャツに代表されるス トリート系の格好のミー子に対して、友達の女の子は小綺麗なシャツワンピースに身を包んでいた。緑のギンガムチェックで、その緑は僕に初夏の草原を連想させた。「今時珍しいくらい擦れてないんだよ」とミー子は紹介してくれたが、確かに彼女は純粋な印象を僕らに与えていて、しかも綺麗な女性だった。同い年とは思えない芯の通った美しさであり、僕の友人が見とれているのが直ぐにわかった。
僕の友人も、客観的に見ても男前な奴だった。今時珍しいくらいに奥手で純朴な、所謂好青年な彼は、彼女がいないのが不思議なくらいだった。お互いフリーな事がわかると、ミー子と僕は世話焼きな親戚の人のようにその場を展開していったのだが、それはそれで非常に楽しかったし、彼らは暫くして交際へと 発展していった。僕の友人は後日「御礼だ」と言ってギネスを1パイントご馳走してくれた。
「それにしても...ミー子ちゃんて、面白い娘だな」
フィッシュ&チップスにモルトビネガーを振り掛けながら友人が突然呟いた。
僕は思わずギネスを飲む手を休めて、目を丸くした。ミー子について、ここまで簡潔に、そして、的確な表現を今まで思い付かなかったのだ。
「まーそうだよな」
そして、僕らは友人の次回デートスポットの選別へと話題を戻した。
季節はあっと言う間に過ぎて、期末試験を迎える頃になった。僕は予定通りの単位を取得すれば、3年からは、専門的な授業を取る方向だ。つまり、ミー子と同じ授業を受ける事は無くなるだろうし、校内で会ったとしても、今みたいにゆっくりと話をする事も無くなるような気がした。最近、頻繁に不思議な夢を見る。ぼんやりとした世界に立つ、輪郭のぼやけた人が立っている。手を振るその人はどんどん遠くへ離れていき、そして僕は汗まみれで目覚めるのだ。
それが誰の姿なのかは僕はまだはっきりとは言い切れない。そのような悪夢、そして言いようのない葛藤を経て、今朝に至ったのだ。想いを伝えなきゃ。
桜並木を2人、肩を並べて歩く。朝方固く心に誓った事だったが、人間のそういった決心ってのはそう長くは続きにくい。僕の心臓はびっくりするくらいの速度で鼓動を繰り返し、決意を鈍らす。しかし、僕は決めたのだ。もしかしたら、と言うよりこのままでは確実に今日終わってしまうだろうミー子との、この関係の間に伝えなければならないんだ。ぼくの中のあの想いが溢れそうになる。
「あのさぁ、ミー子」
「ん?何?」
「俺達出会って1年くらいだよな」
「そーだねー。心理学の授業の最初のころだもんねー。」
「そうだよね。今日で心理学の授業も全部終わったわけだ」
「正直とても寂しい気持ちだよ。あたし」
「俺さ、ミー子に伝えなきゃいけない事があるんだ」
「え...」
「俺さ、ミー子を見てるとさ、凄い思い出すんだよ」
「...何を?」
「...」
「何よ?何を思い出すの?」
「...」
「...昔の...昔の彼女とか?」
「いや、片桐はいり」
〈完〉