軍事に関連する専門的な書籍や専門家の発言に最近多くの「カタカナ」(外来語)が増えてきたなと思う。報道等で以前から使用される言葉なら「レーダー」や「ミサイル」があるな。戦乱の世がやってきたのでミサイルという言葉はしょっちゅう聞く。最近だと「ドローン」とか。ただ俺の中でその象徴は"asset"だろう。なんだよ「アセット」って。直訳の「資産」じゃ駄目なのか?俺はカタカナには反対しないが、必ず漢字で且つ共通の訳を用意して欲しいし、役所が作成する文書には漢字を用いて欲しい、また最後の方に書くが日本の専門家が日本人向けに語るときはなるべく日本語を用いてくれという立場だ。理由は単純にその方が分かりやすいし、分かりやすいという事は様々な面で大切だと思っているからである。

 

インド軍のパレードの動画を見るとある事に気付くと思う。パレードの動画がYouTubeにアップロードされているが、司会が英語と現地語(ヒンディー語だろう)を「交互」に使用している。そしてある程度英語がわかる軍事マニアなら現地語の場面で多くの軍事用語が英語で出てきている事に気付くだろう。現地語の場面で突然"Band Master chief petty officer second class"という発言が出てきたときは驚いた。全部英語なのかと。"second class"くらい現地語で訳せるだろと。しかし考えてみるとイギリスの植民地時代が長く、その期間に近代軍が形成されたので、むしろ軍隊の基本的な用語ほど外来語(英語)率が高いのかもしれない。

 

一方で日本は近代化した際に元々別の用途に使っていた単語を流用するか造語によりこれに対応した。行政関連の用語は公家が使っていた言葉が多いと思う。これは植民地にされていないという経緯があったからだろうし、単にこれまで使っていた言葉を流用するなり、漢字で造語する方が分かりやすいというだけの話だろうが、とにかく日本語を用いた。つまりやろうと思えば現代でもそれが出来るはずなのだ。急速な近代化、社会の革命的な変化に日本語で対応できたのに、なんでちょっとした軍事用語も訳さないんだ。やれよ。tankを戦車と訳し、mineを機雷と訳し、regimentを連隊と訳し、missileを誘導弾と訳しただろ。漢字は沢山あるから出来るだろ。

 

こういうと「ニュアンスが~」とかいうくっだらない反論を受けそうだが、訳した日本語にも共通の「ニュアンス」なるものを持たせりゃ良いだけだろ。というか外来語を使ったからって結局「ニュアンス」が分かってないと意味が無いじゃないか。上記の"mine"とか英語じゃ複数の意味があるけど使い分けられてるし、最初に書いた"asset"だってそうだろ。日本人が「資産」という言葉を使い分ければよい(もしくは造語する)だけの話じゃないのか?ちなみに漢字は元をたどれば中国由来とかいうカスみたいな指摘は論点ずらしなので相手にしない。

 

俺個人としては特に専門家にそのような役割を期待したい。日本の安全保障・軍事の専門家たちは外国の専門家たちと会話する機会も多いだろうし、その際には英語を用いるだろうから国内で日本人向けに発言する際も英語をそのまま使っちゃうのだろうけど、そういう時にぴったりの訳語を用いる、場合によっては造語するのも専門家の役割だと思うのだけどね。言葉の意味・概念の理解に必要な時間を減らし、誤用も防げるという点で、日本人が日本国内で日本語で殆どの学問を学べるという事は、日本の知的水準の向上にかなり貢献していると思っている(身近な例だと色の「カーキ」とか誤用されまくっていて、ファッション界だとOD色がなぜかカーキと表現されている。漢字なら防げただろうに)。これはかつて日本が近代化の道を驀進した際にも大いに役に立ったのではないだろうか(ただ当時の学生や技術者たちの書き物を見ると英語が多いので、高等教育以上の専門知識はまだ日本語でなんでも学べるという次元には至っていなかったかもしれない)。なので現代を生きる専門家達にも日本の為に是非日本語を用いて欲しいなと思うところである。とりわけ大学の研究者は趣味だけで研究しているのではなく、研究成果を社会に還元するという役割も担っているのだろうから、後学達がより学びやすい環境の為にも、外来語なんか使ってないで訳してくれよと思う(社会にかなり浸透して皆がほぼ誤用なく用いている用語や、共通した理解を持つ専門家同士の会話ならまあ良いけどさ)。なお、テレビ出演の経験がある専門家は局側から「平易な表現を用いるよう」要請されるらしいがこれとは違う。専門的な言葉を用いてくれて一向に結構だが日本語を使ってくれというのが俺の願いだ。頼むよ。

 

最後に念のために言うと、今回はインドと日本での事例を用いて比較しているが、両国には歴史的経緯の違いがあり、それぞれの伝統と自らの選択が現在の言語の形なのである。そこに優劣は絶対に無いと俺が考えている事は強調しておきたいと思う。それに用いた例はあくまでも軍事用語という極めて狭い範囲である。別にインドが英語に支配されたという意味ではない。