秋の夜風はカーテンを揺らしている。
肌寒さを感じて、りょうは開け放した窓を閉めた。


締め切った部屋の中でも
夜虫の鳴き声は快いメロディーを奏でている。


りょうは子供達を寝かしつけるのに、毎夜昔話を読んで聞かせている。
特にお気に入りは
「こぶとりじいさん」
「つるの恩返し」

3ヶ月ほど過ぎても子供達には飽きた様子はない。



今晩は、少し趣向を変えてみることにした。
携帯を取り出し、
布団に川の字で横になる。


YouTubeを開き…
日本昔話を検索。

今日は動画を見せてみることにした。

「三枚のお札」

昔、見た覚えがある。
たしか、山姥から坊主が逃げる話だ。


怖がらせるイタズラ心もあったし、悪いことすると山姥が来るよ~と、子供達に躾?する気もあった。


携帯の動画を3人で見入る。


日本昔話の声優の声がものすごく懐かしかった。
子供達は目をキラキラさせている。



続く
じりじりと照らした太陽は
ひんやりとした月と入れ替わり
夜風が肌に爽やかさを残していく………

本を読みながら…頭の中は違うことを考えている。


………………………

灼熱の昼間の暑さをしのぐためと、毎月チェックしている子供達の本を確認するため
りょうはクーラーの効いた
本屋にいた。もちろん娘と息子も。


ズラリと並んだマガジンラックと陳列棚を廻る
子供向けのマガジンラックはどこの本屋も、たいがい入り口周辺の低い位置にある。

まず…息子向けのを確認…
付録はDVD付き…オモチャ付き… 惹かれるものは無い。
が、息子には
新しい仮面ライダーが載ってる事を伝えた。

息子の手にはその本がすでに持たれていた。
苦笑いしつつ、

娘向けのを確認……
姫組?プリキュ…
ある程度女の子向けのものを勉強しているのだが
子供向けの本にメイク道具(もちろんオモチャだが) が付録であるのが疑問だ。

娘はりょうの予想を外れ、絵本コーナーでジュエル…を
読みふけっている。
息子も同調して絵本を見だした。

確認も終わったので
りょうは自分の趣味の本を探した。
ガンプラ(笑) 昔からの趣味である。
ガンプラ関係の本を読んでいる時の顔は恐らく子供のようだと自分でも思っているので、恥ずかしくて人には見せられない。

ガンプラもそこそこに
新しい趣味のクライミングの本を探した。
目的のものは…見つからない。
トレッキングだの登山だの。
そうゆう類は多く見受けられる………
数分かかったが、陳列棚の端にクライミングの背表紙を見つけた。
早速確認。
…ふむ
……ふむふむ


…
…

結構読んだので
顔をあげて子供達を確認した。まだ絵本に夢中だ。

目線を子供達からクライミングに向ける前に
なにげに店内を見た。



ん?
難しそうな育児書の前に
1人の女性が目に入った。

薄いベージュのレースのようなカーディガン?に黒いハーフパンツ姿。
レースの中はノースリーブのようだ。
(後々分かった事だが
ドルマンスリーブというものらしい)

白いふくらはぎ……(コラ!)

髪は後ろでシュシュでまとめている。
ブラウンかかった色…
…
…
…
…

え!?
…
…
まさかな…似た格好の人って居るし。
そうも思って
クライミングに目線を戻した。
この時どのページだったか記憶してない。

本によって限られた視界の隅を人影が通り過ぎていった。

かなり速く過ぎた気がした。


見ると………





彼女だった。


彼女は本を一冊持ちながら、
棚の本を物色している。

レジに行こうとしたのだろう。
振り返った。



目がチラッと合う
が、すぐ伏せた。
と思った瞬間…
気付いてくれた!

『あっ!こんにちは~』
笑顔だ。
「こんにちはっ」

『こないだは…すいません~』チラッと見える八重歯が ・・・・
「いえいえ」

『こんなの読もうと思って…ハハハ』

彼女の持っていた本は
[東大脳をつくる…]

って本だった。
育児書の棚に居たのだ。
子育て関係の本だろう。

「すごいですね!教育が…ハハハ」

なんか
ガンプラとかクライミングが
恥ずかしくなってしまった。


彼女とのやり取りはこれだけだった。
でも……満面の笑顔だった。

りょうはクライミングの本を買って帰った。


「明日…逢えるかな……」
あと少し…………だった

伸びきった右手の先に大きめのホールドがあった。
上半身を支える左の指先は
りょうの意識を無視して
小刻みに震えている。

グッと足に力を入れた瞬間、ズレる感覚が襲った。

「テンション!!」

ズレるのと同時に、りょうは声を張り上げていた。

身体のロープはピンっと張り、りょうは空中に浮いた。

スルスルと地上に降りてくる。



クライミング
初めたばかりだがハマっている。
壁を登りきった達成感というのはたまらなく爽快だ。

これからもずっと続けたい。


2人一組でやらないといけない。1人は命綱を引っ張ってあげないと…

クライミング仲間のK氏は
負けず劣らずハマっているようだ。




日も暮れかけ……
壁はまた登る挑戦者を待つ。