大紅団扇 ① | 明鏡 ーもうひとつの信義ー

明鏡 ーもうひとつの信義ー

韓国ドラマ『信義ーシンイー』二次小説



扉は不意に開いた
いつになく青白い顔をしたあの人が立っている

「どうしたの?隊長」

一瞬目を逸らし私の顔を見た
今度はどんな名目で私を翻弄するつもり

「入るの 入らないの?」

唇が僅かに震えたように私には見えたのよ

「医仙」

ほら、キタキタ
私はそのお願いを聞く気はないわよ

「やっぱり帰ってちょうだい、忙しいの」

部屋に入っていない今なら押し出せる
私は小走りに扉に向かった

「ガシャン」

大きな音が響いて思わず足を止めた
あの人が持っていた剣が手から落ちた
鉄剣と鞘の当たる鈍い音と木の床に転がる音が合わさった

「俺」

どうしたのよ、あなたの大切な人からもらった剣じゃないの
早く拾いなさいよ

「まさか」

唇を噛み締めたまま俯き、あの人の膝が折れ扉の前で座り込んだ
何があっても弱さを見せないあの人が・・・

「早く」

私は剣を足で蹴ってあの人の腕を掴んだ
剣を拾ってテーブルに置いている暇がない

「誰かに見られたらどうするのよ」
「医仙」
「体面・・・自分の命より大切でしょ」

医仙は俺の腕を強く引っ張った
支えきれない体は医仙へ覆いかぶさる形で倒れ込んだ

「すみませぬ」
「痛いじゃない」

キリッと怒った目は、どこか悲しそう見えたのだ
もう頼ることができるのは貴女だけです

「医仙」

両手を広げて貴女を抱きしめた
どうしてだろう俺は貴女の顔しか浮かばなかった
王様の顔も・・・
叔母上の顔も・・・
隊長の顔でさえも浮かばなかったのだ

「俺を・・・」

熱に魘されたような目で私を見下ろした
一瞬だったわ
ほんの一瞬に
私は射抜かれた



ー胸の奥の一番深い処をー