――  金曜日  ――


ゆりが『にのあい』に来る前からです。















ふっー。



取り引き先のトイレで溜め息が溢れる。



また、だ。



打ち合わせ中に、



「先日連絡した件は、どうなったの?」



と聞かれた。



私は...何も聞いていなかった。



こちらの一瞬の動揺も見逃さずに、



「菜月さん出てるからって、他の人に伝言頼んだのに、聞いてないの?」




「...はい。申し訳ありません。直ぐに確認を  」




「もういいよ。じゃあ、それは他に頼むから。.....ねぇ、噂で聞いたんだけどさ、あの専務と できてんの?」




「いえ、まさか。そんなことはありません。」




「...そう? だから、嫌がらせされてるって、他の子が言ってたからさ〜 可哀想だなって。。大丈夫?」




そんな言葉をかけるこの人も、その噂を流して楽しんでるんだろう...



ニヤニヤしながら、
舐めるように体を見られる...














...再来週には、NYに経つ。



少し我慢してれば、いい。


人の噂なんて、時が経てばなくなるはずだから。
私がNYに行けば、言われなくなるだろう。



そう考えて、頑張ってみても...

仕事にも支障があるくらいの嫌がらせを、連日されていては、流石に 疲れてきてしまった。





昼ご飯、、、また食べそびれた。




相葉さんの、サンドイッチ...食べたいな。
二宮さんに...会いたいな。






2人を思いだすと、、


心が 少しだけ、、休まる。






あ...!!




ここって、、



『にのあい』の近くだ!!



駅的には、地下鉄が通る線が違うから 気づかなかったけど、歩いたら...10分位かも。




お昼まだだし。
行こう!!




そう思っただけで、元気になった。




二宮さんとは、あれきり会っていないし。
毎晩電話は していたけれど、会いたくてたまらない。


明日会う約束が 待ち遠しかったけれど、
今直ぐに、会える♡ ふふっ♡


びっくりしてくれるかな...
喜んで くれるかな...





おのずと、早歩きになって
『にのあい』に向かった。






お店の前に着くと、

二宮さんが、ガラス越しにみえて...
急に 心臓が高鳴りだす。



二宮さん...








...あっ、、、



小柄な可愛いらしい女性が、二宮さんの腕に自分の腕を絡めていた…




ズキッ...



お店の服を着ているから、新しいスタッフさんなのだろうと察しはついた。








躊躇いながら…...



お店のドアを開ける。




「いらっしゃいませ〜」





...この人、、どこかで...



.....この前のイベントの時に、二宮さんをお昼ご飯に 誘いに来ていた人だ。


...二宮さんへの好意を、あからさまにして、、誘っていた人。











二宮さんは...
彼女と   一緒に仕事しているんだ...







胸が ズキズキ...してくる。







彼女が 席に案内してくれた。




「...あの〜この前のイベントに いましたよね?」





「あ、はい。一日だけ、お手伝いさせていただいたんです。」





「...そうなんだ〜 私 安斎 っていいます。二宮さんに誘われて、ここで働くことに なって〜。OLさんですか? よかったら、名刺とか...いただけません? 常連さんのこと、覚えたくて。」





「...あ、はい。...菜月と申します。常連っていうほど...頻繁には、、来てないんですけど...」





名刺を差し出すと、彼女は 可愛らしく笑って




「え〜 会社、遠くないですか〜? やだー。二宮さんか、相葉さん 狙ってるんですか〜」





「...いえ、、そんな...」





「あ、注文決まってます? これから 休憩入るんで...二宮さんと。」





サンドイッチと コーヒーを注文した。





彼女を.....ずっと 目で追ってしまう。




...二宮さんの側で、楽しそうに笑っている。


...二宮さんも、、楽しそうに、笑っている。










私、何しにきたんだろう...


仲の良い 2人を見て、胸が締め付けられるように苦しくなる。





ヤダヤダ。
何を ヤキモチ焼いてるんだ、私は...




二宮さんが、コーヒーとサンドイッチを運んでくれた。




でも、、
ヤキモチ焼いてる自分に気付かれたくなくて...


二宮さんを 見られない...




少し話していたら、
レジのパソコンが故障してしまったみたいで、
行ってしまう。





仕方ないよね…

仕事中なんだから…






相葉さんのサンドイッチを食べる。
ん。美味しい。
相変わらず、丁寧な味。


少し、ホッとして...




コーヒーをみつめる。


二宮さんが淹れているのを、静かに隣で見ていた彼女の姿が 浮かんでくる。



二宮さんが好きな気持ちが、
こちらまで伝わってくるかのように、、
ずっと 二宮さんの側にいる彼女...









先のお客さんが、帰ると、店内は私一人だった。




二宮さんと、彼女の楽しそうな声がどうしても聞こえてきてしまう。




聞きたくなくて...


見たくなくて...



目をそらす。




窓の外に 目を向けて、、




思った。






もう、ココには 
私の癒される場所はないんだ...と。