オーナーの北川さんには、開店時 とてもお世話になっていた。店が軌道に乗るまで、家賃を安くしてくれたり、お客さんを紹介してくれたり。



温厚で優しくて、いい方だ...





北川「...こんばんは。2人とも元気だったか? 大分久しぶりになっちゃったな。店は順調みたいだね。」




二宮「...こんばんは、こちらこそご無沙汰してます。お陰様で、順調にやらせていただいてます。...あの、、こちらは...」





安斎「二宮さん、こんばんは。また来ちゃいました。」





オレの言葉を遮って、安斎が楽しそうに話し出す。





北川「...二宮くん、、あ、お客様 いらしたんだね…」





北川さんは、カウンターの奥にいた翔さんに気付き、会釈しながら笑顔を向ける。





二宮「 いえ、彼は友人ですから...」





翔「...あ、これは失礼。話の邪魔ですね。食べたらすぐ 帰りますね…」





まーくんが、翔さんをバックヤードに招いていた。カレーライスとカフェラテと共に翔さんが見えなくなると、北川さんが 言いづらそうに話しだした。






北川「...こんな夜に...急ですまないんだが、、、沙織さんのことなんだが...」





二宮「...さおり って、、」




安斎「私、沙織って言うんです。明日から、よろしくお願いしまーす 」




二宮「...よろしく?」




北川「沙織さん、、申し訳ないが 車で待っていてもらえるかな。」




安斎「はーい。わかりました。北川のおじ様、二宮さんに、よーくお願いしてくださいね〜  あ、二宮さん。」





安斎が、腕に絡みついてきて 耳元で囁く。




安斎「...私、欲しいって思ったら、、売約済みでも、手に入れたいんですよ。」




神経を逆撫でるような言葉に、言葉ではなく 強い視線で 返すと…





安斎「...その目が好き。。明日から、楽しみ〜」




そう言うと、店を出て行った。









北川さんが 神妙な面持ちで話し始めた。


北川「...二宮くん、相葉くん、、安斎沙織さんは、私がお世話になっている社長の娘さんでね。今日 社長直々に私の所に電話があって...沙織さんが、ここで 、働きたいと言っているから、口添えしてもらえないかって…頼まれてね。。」





二宮「...北川さん、、それは...申し訳ないですが、」




北川「二宮くん、うちの取り引き先は 全て安斎社長の傘下でね…本当に申し訳ないけれど、私を助けると思って、なんとかお願い出来ないだろうか…」





二宮「...」





北川「...こんなこというのも、アレだけど...沙織さんは まあ、、みての通りで、、我儘で...仕事なんて遊び程度にしかしたことないと思うんだ。気まぐれだよ、お嬢様特有のね。。だから、長くは続かないと思うし...なんとかお願い出来ないだろうか…」 






二宮「...北川さん、うちも客商売なんで。彼女が まともな仕事出来るようには…」 




北川さんは 何も言わず膝をついた。
まさか土下座する気...じゃ、、



直ぐに 腕を持ち上げ、立たせた。




二宮「やめてください。」



北川「...本当に申し訳ない。情けない話だか、、安斎社長に目をつけられたら、私なんか あっという間に、首括らなきゃいけなくなるんだ...」




そう言って、深々と頭を下げた。






仕方ない.....


そう思って、まーくんを見ると…
まーくんは 北川さんを 悲しい目をして見ていた…




二宮「分かりました。北川さんが そこまで言われるなら、、彼女をうちで雇わせていただきます。」





北川「ありがとう。二宮くん、相葉くん。」




北川さんは何度も頭を下げて、車へと帰って行った。










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「汚ねーオンナ。」



聞いたことも無いような 冷たい声がした。




「...まーくん、、、」




「オレ、ヤダから。そんなのと、仕事すんの。」




「いや、だってさ...」




その後の、言葉が続かない。



まーくんが、、怒ってる。


長い間一緒にいて、こんな まーくんは 初めて見たし...こんな冷たい声は、初めて聞いた。



普段 優しい人間が、怒ると怖いとは、、
このことだ...



雇うことを承諾したオレに、 
行き場のない怒りを露わにするなんて...

まーくん  らしくない。




...いつもなら、



「...え〜超ヤダ! けど、ま 仲良くやりましょー。皆んな大人なんだし。」 




とか、言うんだよ。。まーくんは...





翔さんが傍にきて、助け舟をだしてくれた。



「...雅紀、、オレが口出しするのは おかしいかもしんねーけど…聞いてた限りじゃ、仕方ないよな。」





「...」





「 モテる男は辛いね〜ニノ。」



揶揄うように、笑う翔さん。
場を和まそうとしてくれてるのが、わかる。




まーくんは、翔さんの気遣いなんて気にしてないみたいに、表情を変えない。



「...菜月ちゃん、嫌がるよ。絶対。」




「...え? 、、いや、、アイツと付き合えって言われたわけじゃないからね。」




「...おまえは、分かってない...」





まーくん...




ゆりのことを 心配して怒ってんの?



なんで…?



「...仕方ねぇーじゃん。翔さんも言ってるようにさ、あんな頼まれ方してんだし。北川さんには、お世話になってるんだしさ。」




「...キッチンには、いらないから。」




「分かったよ。ホールやってもらえばいいだろ?」




「...」




ぷいとそっぽを向いて、帰り支度を済ませ、
まーくんは、何も言わずに 帰ってしまった。




こんなに怒るまーくんに、戸惑いを隠せずにいると、




「...菜月くんが 嫌がるってことはさ。...結果、ニノに返ってくるってこと...だろ? 」





「...はい?」




翔さんが言おうとしてる意味がよく分からない。




「...いや、、ま。なるよーに なるよ。ただ.....遠距離になるからな〜ま、踏ん張りどころだな、ニノ。」






「...」





翔さんは、笑いながら まーくんの後を追うように帰って行った。