目まぐるしい忙しさとは、このことだと思った。




出社して、森村が 自己退職した...と 聞いた時は驚いた。




櫻井専務と話したのは、昨日の夜。



...専務の早すぎる手腕には、脱帽した。



相葉さんと 食事に行っていたから、その後?
今朝?

いずれにしても、森村と話をして 
退職を促したのだろう。


森村が何故 退職に追い込まれたのかは、興味がなかった。専務も話せないと言っていたし、自分の度量を越えることなのだと理解していた。




朝一で、専務に呼ばれ NY支社の責任者に正式に辞令がおりると 話があった。



「はい。最善を尽くします。よろしくお願いします。」




そう答えると



「...いい顔してるね。ニノと、幸せになれた?」




今まで キリッと仕事モードだった専務が、急に優しい顔で そう話してくる。




隣にいる秘書の方が、スッと席を外した。




「///// はい。...専務、ありがとうございます。」




「...えっ?」




「背中を押していただいたというか、、」




「...オレら、キューピーだから。当たり前だよ。」





「...キューピー? ですか?」




「ああ。クククッ...。 ま、恋も仕事も、頑張れよ。」




「はい!」











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その後 部署は、大騒動になった。


森村の急な退職に様々な噂が飛び交った。

彼が 請け負っていた仕事の数々を 皆で分担して引き継いだが、森村の仕事の雑さが露呈した。


今まで 全て周りがサポートしていたのだと、
改めて気付かされた。




更に、専務は 私がNY美術館の責任者になることを自ら発表してくださった。



責任者は基本的には、そのままNY支社に配属されるのに、転勤扱いにする理由について...


「優秀な菜月くんを日本に、私の手元に...置いておきたいと思うのは、私の我儘だから。」




なんて...

なにやら、含みのある言い方をされるから…


瞬時に 女子社員の視線が突き刺さってきた。




専務がなぜそんな言い方をしたのか、考えればすぐに分かった。



転勤したくないということが、私の意思なら、
そんな甘い考えの女子社員を責任者になど、誰も認めたがらないだろう。
私の立場を考えてのことなんだ...



だから、自分の我儘なんて 言い方をして
私にくる非難を 逃そうとしてくれたんだ。





...でも、、、




専務〜〜



違う方達が怒ってますから〜〜




デスクに戻り仕事を始めようとすると、
明らかに不愉快そうな顔をした方達が すぐさま私の所へやってきた。




「...菜月さん... ちょっといいかしら?」





皆さん揃って、とても美人。
秘書課の方々だという。



用件は 聞かなくてもわかっていた。





「ねぇ、あなた。櫻井専務とどういう関係なの? 」



「 社員と専務という関係ですが…」




「...どういう意味? それなら、専務が あんな言い方するわけないでしょ。私達をバカにしてるの?」







そう。
専務は、厳しい人で有名なんだ。

ドS の専務なんて、裏で呼ばれてるくらいだから。


一女子社員を褒めるとか、
手元に置いておきたいなんて言い方〜〜

専務、まずいですよ〜


この美しい方々が、なんて答えれば納得するのか、考えていると...



「...あなたレベルに、手を出す方じゃないのよ。」



「はあ。そうでしょうね、、」



「じゃあ、なに、大切にされてんのよ!」




そ、それは、専務と二宮さんがお友達だから...

と、答えるワケにもいかず...




「いえ。別に大切にされているわけでは…ないと思うのですが…」





ぐいっ


背の高い女性に 胸元を掴まれた。



流石に、ムッとした。

...でも 我慢我慢。
同じレベルで 争っていても仕方ない。


私が大人になろう。
ただの嫉妬なんだから。



「...手を離していただけますか。」



「あんたさ、優しく言ってあげてれば、偉そうに!」




私の冷静な態度が かえって相手の怒りを煽ったのか、右手を振りかざされた。


ぶたれる!
そう思った時...




楠「...どうか、されましたか?」




振り上げられた手を握っている女性が、いた。

...この人は、、専務の秘書の方...




「痛い! ちょっと、離してよ!」




楠「...専務に報告させていただきますね。専務の人事に納得出来ない方々が、菜月さんを虐めてらっしゃると。」



楠さんは手を離すと、
厳しい顔をして、冷たい声でそう言った。


...全員 顔面蒼白になっている。




「...楠さん、申し訳ありません。反省しますので、専務には…その...」


「...私達は、別に専務の人事に納得出来ないわけじゃなくて...」




菜月「...私なら、大丈夫です。」




楠さんに 向かってそう言った。


楠「えっ?」




「ほら、彼女もそう言ってるし、、ちょっとふざけてただけですよ〜」




楠「...あなた、、」




「では、私達 仕事に戻りますね」





綺麗な方々がいなくなり、楠さんと2人きりになる。




「...楠さん、お話させていただくのは 初めですね。...菜月ゆりと言います。助けていただいて ありがとうございます。」




「...菜月さん、、強いのね。それに頭のいい方ね。ふふっ。専務が気に入るのが、わかるわ。」





「..... えっ、、」





「でも、少し優し過ぎてしまうわね。あの子達以外にも、、何かされるかも知れないし...専務に言って、注意していただいたほうが...」 




「楠さん、大丈夫です。専務に心配をおかけしたくないですし、私自身、身に余る辞令だと思っていますので、自分の力で認めてもらわなければいけないと思っています。専務の期待に応えたいですし、全力で取り組ませていただきます。」




「...あんな子達には、やられないってことね?」




楠さんが 優しく笑った。




「はい。もちろんです!」




「...そう。分かったわ。でも、何かあったら…私に、、、言わなそうだから、目を光らせておかなくちゃね 」





「...楠さん、、ありがとうございます。なんだか、もっと強くなれそうです。」






ニッコリ笑って 手をヒラヒラ振りながら、
楠さんは 行ってしまった。















私の心の中にいる2人。






たった一日だったけれど…

彼らと一緒に仕事をした経験が、
私を今までの私より 強くしてくれている。





自分の仕事に 誇りを持って
自分の仕事で 誰かを笑顔にして...


いつも自分に出来る最善を尽くす。



そんなふうに、私もなりたい。



だから、頑張る。




二宮さんに もっと近付きたい。



恋人としてだけじゃなくて...
仕事をする 人 としても。