ショッピングモールを覗く時間はなくなった。
必然的に昼飯を食う時間は、とうになくなった。
花火大会のある河川敷まで、沢山の人の流れにのり、歩いていく。
道には、屋台がいくつも立ち並び歩く人の流れを止めていた。
「あ、翔くん。あんず飴があるー。」
「あ、翔くん。焼きそばも美味しそう。」
「あ、翔くん。あれ、みて。五色のかき氷。」
子供みたいにはしゃぐ紅深が、可愛い。
だけどよく聞いてると、食べ物の話ばかりだ。
「…紅深、お腹空いてる?」
「……うん。」
「なんか、食うか?」
「うーん。でもこの流れにのっていって、場所とらないと、いい場所で花火見られないかも知れないよ。続々と混んできてるし。」
花火なんて、ある意味どーでもいい。
紅深の喜ぶ顔を見る為のツールに過ぎない。
空腹のまま、まだまだ始まらない花火大会を待つのは辛いだろうし。
「……なんか食っていこう。オレもお腹空いてきたし。」
「いいの?」
「もちろん。何食いたい?」
「うーん。」
いつも決断力のある紅深が、屋台からのいい匂いに誘惑されまくってる。
「...分かった。とりあえず、あそこのベンチで待ってて。」
「うん。」
丁度都合よく空いたベンチを指さす。
紅深がそっちに歩き出したのを見送って、オレは屋台に向かった。
とりあえず、さっき言ってた
焼きそばと、あんず飴を買った。
かき氷はさすがにかさばり、1人では持てないからあきらめた。
更に、たこ焼きやら飲み物やら、両手に抱えて人混みを抜けて紅深の待つベンチへ行こうと...
……いない。
遠目にも紅深がベンチにいないことはわかる。
わざわざ席を譲ったとは思えない女子高生達がベンチに座っている。
……どこだ?
急に不安になる。
すぐに荷物を置き、携帯に電話してみる。
……虚しくコール音だけが響き、留守電に繋がった。
まさかこの人混みで連れ去られるわけはないだろうが、変なヤツに絡まれたりしてたら...
なんでオレは紅深を1人にしたんだ……
行き交う人の楽しそうな顔をみながら、自己嫌悪に陥った。
その時
「翔くん。」
後ろから声がした。
えっ...
振り向くと、ぬいぐるみのようなトイプードルを抱っこした紅深がいた。