「保育園落ちた」現象から学ぶ 空中戦のヒント
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今年の日本の政治キャンペーンの中で、最も"成功"したと言えるのが、「保育園落ちた。日本死ね」ブログでしょう。

一主婦がブログに書き込んだ内容が、メディアで大きく報道され、国会の質問にも登場しました。その影響もあり、「待機児童問題の解決」は参院選の大きな争点にもなっています。

「どこまで仕掛けられたものか」「政治的主張としてどこまで正しいか」は一度置いておきます。

ただ、「世の中にメッセージや言論を広く発信するには」というテーマで見たときに、この現象は大いに参考になります。


◎広告が効かない時代に

この現象の凄さは、「今、広告の内容がほとんど伝わらない時代に入っている」ことを考えると分かります。

というのも、現代は「情報爆発」の時代です。人はテレビやネットの広告を見ても、街中で看板やキャンペーンを見ても、0.004%以下しか見ていないと言われているのです。

そんな中、なぜ一般人のブログが多くの人に振り向かれることになったのでしょうか。

(1)空中戦が効くのは賛同してくれる層

まず、同ブログが話題を呼んだ経緯を振り返ってみます。

まず、30代前半の女性が、独り言のつもりで書き込んだものでした。それが、多くのママたちの共感を得てブログやツイッターで拡散。著名人などがブログに取り上げるなどしたことから、話題は雪だるま式に拡大します。

大事なのは、「すでに同じ問題意識をもっていた人たちに強く刺さった」ということ。

これは、最近の広告における常識変化を反映しています。

少し昔なら、「サッカー好きでない人を試合に来させるCM」というのが成立したのです。サッカー好きでない人でも、CMを一応見てくれたからです。

でも今は、「すでにサッカー好きな人に向けたCM」でないと、効かないと言われています。既にサッカーにアンテナを張っている人です。「それ以外の層は、どうせ見向きもしない」という割り切りです。

「保育園落ちた」ブログも、保育園問題に関心のない人たちへの説得ではありませんでした。まずは、「そうそう!そうなのよ!」と共感してくれるママ層に刺さったのです。

つまり、不特定多数に向けたメッセージ(空中戦)で成果を得るには、「すでにそのメッセージに賛同する信条を持っている人」、商品なら「すでにその商品が好きな層」「潜在顧客」に向けたものと割り切ったほうが、効果が出るかもしれないということです。

(2)人こそ最強のメディア

では、そうでない層にメッセージを届けるには、どうすればいいのでしょうか。

「保育園落ちた」ブログは、「待機児童問題は問題だ」と思っていた以外の層にも届きました。上のサッカーの例で言えば、サッカーに関心のない層にも届いています。

その理由は、ブログが「人づてに広がったこと」です。

保育園問題に関心のなかった人たちは、同じブログ内容を、街頭のキャンペーンやテレビCMを通して見ても、スルーしていたはずです。

しかし、「自分の知り合い」がその話題を会話やSNSで取り上げれば、途端に注目する優先度が上がるのです。

テレビで聞く、「どこかの国の政局が激変した」という話よりも、知り合いの体調不良の報告や、おいしい店を発見したという話の方が、注目してしまう。それは、情報が溢れている世の中にあって、「人間こそ最も信頼できるメディア」だと感じているからです。

最近は企業も、同じく広告費を使うなら、「不特定多数に商品の素晴らしさを伝えるよりも、すでにその商品を使っている人に口コミしてもらう」ということを考えています。

つまり、情報が増えたこの世の中にあっては、人を介して初めて、商品に何も興味を持っていなかった人を振り向かせることができるということです。

(3)個人のストーリーが共感性を持つ

「保育園落ちた」ブログの、もう一つの注目ポイントは、「ストーリー形式になっている」ということです。

もしブログが、保育行政の仕組みの不条理を論じたものであれば、あれほどの広がりは持たなかったでしょう。ある女性が、保育園に落ちたばかりの悔しさを、自分の身の上の話として綴ったからこそ、「説得」よりも強い、「共感」の力を得たのです。

演説のうまさで知られていた、オバマ米大統領も、この手法をよく用いています。例えば、2008年の勝利演説で、オバマ氏はアメリカの歩んできた歴史を語るのに、106歳の老婦人を登場させてその人生を通して語っています。パーソナライゼーションという手法です。

短時間で印象付けるには、こうした手法も参考になるでしょう。

以上、「保育園落ちた」ブログ現象から、「この世の中で、広くメッセージを届けるには」というテーマを考えるヒントが得られます。(馬場光太郎)

【ポイント整理】
(1)不特定多数に届けるメッセージ(空中戦)の対象は「賛同しやすい層」と割り切った方がいい場合がある。
(2)すでに賛同している訳ではない層には、人づて(口コミ・地上戦)でないと届かない。
(3)共感を得るには、個人的なストーリーの形式が効果的。

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