表紙のくふう
前日に上巻を読了した私は、朝6時から下巻を読み始めた。表紙を見て分かる通り下巻は本戦のスタートの場面からであった。駅伝ファンの方ならここが大手町読売新聞社前であることはすぐ分かるだろう。スター直前のヒリヒリした緊張感が伝わってくるではないか。これ以上の表紙はないと思った。ちなみに上巻の表紙は陸上トラックだった。走っている者、そのタイムを計測する者、走り終わって倒れ込む者達の姿が描かれており本戦に臨むための苦しい練習がイメージできる。上下2巻に分けたところもメリハリがあって良いと感心する。
疾走感あふれる小説
ご存知のように箱根駅伝は1月2日が往路1区から5区まで、翌3日が復路6区から10区までおよそ1区間20kmを10人のランナーが襷をつないで走るレースである。
ほぼ1章を1区間に割いて描いてあるので、読者はあたかも選手と一緒になって走っているような錯覚に陥る。もしくは沿道で応援している気になる。見事な構成であると気付いた。
いかにも池井戸作品らしさ
これまでの池井戸作品は主に銀行や中小企業が舞台として扱われてきた。今テレビでやっている『花咲舞が黙っていない』を観ても分かるように、虐げられた弱者が地道に頑張って最後にはどんでん返しするという爽快感がファンを惹きつけているのだろう。
本書『俺たちの・・・』でもその構図が鮮明だ。
学生連合といういわば肩身の狭いチームのこと。さらにそれを映す放送局の内部の軋轢。この2つを同時進行で描いているのである。
それが最後に・・・。これ以上書くとネタバレになるので控えておく。
さっきも書いたが池井戸作品は逆転劇がつきものである。弱小チームが勝つことは予想できるのだが、そこに奇跡が訪れて・・・的な解決法ではコアな陸上ファンは納得がいかないだろう。天候や選手起用の妙、選手の背景によるところのモチベーション、突然のアクシデント・・・。
こういったことを描くことにこれはありうることだと納得させられるリアリティが読書を加速させてくれた。
再び疾走感について
正月の箱根駅伝が始まるとトイレに行くことさえ躊躇われるほどである。目を離したすきに順位が入れ替わらないか心配だからである。したがって120秒という長めに設定されたCMの時間に駆け込むことになる。
今回の読書もそれと同じようなことが起きてしまった。すなわち読み始めたらもう没頭してしまったのだ。読書をやめている間に順位が入れ替わることはないのだが、ゴールに突き進む選手と一緒に走りたい気分にさせてくれるのだ。
朝の6時に読み始めて読み終わったのが昼の3時。7時間で300ページ超の本を読んでしまった。区間新記録ならぬおそらく自己ベストの更新である。
結果は申し上げることはできないが十分満足のゆく読書体験だった。
池井戸潤さんはスポーツファンをも唸らせる見事な作品を書き上げた。
こうなるとドラマ化を期待したいところだが、駅伝ランナーのように走れる俳優はいないからそれを求めてはいけないのかもしれない。
興味のある方はぜひこの本読んでみてください。そしてよろしかったら本の感想をコメントしてください。