僕が君の事を思い出すのは
天気がいい日や
美味しい物を食べた時
夕日が沈む海を見たり
強く風が吹いた時。

君とこの景色や感動を
共有したいって
気持ちが溢れるんだ。

でも本当は
この街には君の好きな物が
たくさんあるから
気がつくと君のことを想ってる。

僕の住む小さな街。
君が大好きだと言ったこの街。

君と出会う前は退屈で
毎日同じことを繰り返してた。

でも今じゃ宝物みたいで
離れたくない街になったよ。


初めて僕らが出会った日は
それはもう暑くて
蝉がうるさくて
べたつく汗が気持ち悪くて
うっとーしい程
眩しい夏の日だった。

僕の住む街は
桜並木と急な坂道がたくさんあって海に面した小さな街。

どこに行くにも
坂道坂道…

毎日どこかしらで坂を上り
毎日どこかしらで坂を下る。

それを繰り返す。

もっと平らな街に住みたかったと考えることもあるけど,
この街に1つだけ僕の大好きな場所がある。

それは僕が12歳の時に初めて知った,
この街で1番急な坂道の途中にある図書館。

坂道を上った先には神社と森しかないからか,若者はあまり寄り付かない。

僕だって学校の図書館しか行った事がなかった。

家からここまで30分以上は歩くし,何しろ坂道が嫌だった。

この街のほとんど人は
学校の図書館か
隣街の大きな図書館に行く。

隣街の図書館はバス停前にあって,
便利でなにより新しい。

でも僕はわざわざ30分以上歩いて
ほぼ毎日この街の図書館に通っている。

きっかけはただの迷子だった。
僕の家と図書館とはちょうど
反対方向にあって
探検のつもりで出掛けたら
見事に迷子になった。

この歳になっても迷子になるのは,
僕が悪いんじゃなくて
この街が悪いんだと思う。

迷いながら1時間以上歩いて
僕はふらふらだった。

せっかくの夏休みに
探検なんてするんじゃなかった…。

疲れ果てて見上げた先にはあの図書館があった。

涼しさを求めて必死に坂道を上る。

風が気持ちがいいけど
照り付ける陽射しが痛かった。

やっとの思いで図書館に辿り着くと,
クラクラしながらも中に入った。
-……。

雨の音が響く。
痛みで疼く右手を握る。

ぼーっとする頭を少し傾け
写真立てに居る
笑顔の二人を見つめた。

あの頃の純粋な二人。
この無邪気な笑顔に
何度助けられただろう。

立ち上がり,薄暗く
濁った朝の空を見上げた。

もう一度右手を強く握ると
痛みと一緒に眩暈が襲う。

よろめきながら
ベッドに倒れ込む。

あと少し…
あと少しだけ……

より一層強くなる雨音が
耳鳴りの様で目をつぶる。

そしてゆっくりと深く
意識は遠のいていった。

きっとまた
夢の中で二人は出会う。

戻れないあの日に
向かってしまう。

出会わなければなんて
思ったことはない。

ただ切なさが絡む
胸の苦しみも嘘じゃない。

愛おしい日々は
もう返ってこないのに
夢の中では
期待させるように
何度も何度も
桜が舞い散る。

柔らかい檻に囚われて
今日も桜に埋もれ
あの日々を見つめ涙を流す。

何度も何度も
それを繰り返す。

何度も何度も…。