梅雨の晴れ間が続いていましたが、そろそろ雨予報が増えて来ました。
状況さえ許せばDVDをどんどん観て行きたいところですが(^^;)
先日観たのは日本版タイトルは「ルージュ」。香港映画です。
原題は、
日本の漢字にはない字なので、香港の映画雑誌に毎月紹介されてるのに読めなくて、意味が解らなくて難儀しました。
「胭脂扣」「インチーカウ」と読むのだと後々、知人に教えてもらいました。
そして英語タイトルの「ルージュ」と読んでフランス語の口紅の意味だとわかりました。
1987年製作公開のこの作品、香港の映画雑誌で前評判が高かったのは、製作会社がゴールデンハーベスト内のゴールデンウェイだったのと、
このタイトルに既視感あると思います。
プロデューサーが、
ジャッキー・チェンだったんですねぇ。
87年といえば、満を持しての大作「プロジェクトA2」を製作したジャッキー。同時期に「羅王花」など数本製作しています。
バリバリ仕事が楽しかった時期(いや、いまもそうだと思いますがエネルギーも名声も無限に可能性のあった頃)だったんだろうなぁ。
以前に記事にした、初めてゴールデンハーベスト内の事務所に行った時か、その次か記憶があやふやですが、
ジャッキーが、旅行中じゃないかもしれないけど、と「プロジェクトA2」の完成記念パーティの招待状をくれたので、記念に残してました。
よく考えたら、作品名が羅列されてました。
知人経由で、このパーティに行った方が撮られた写真をいただけてました。
これだけのスターが勢ぞろいしてたらすごいなぁ。
当時、なんでアニタとレスリーと3人で写してるのかと思ったけど、「胭脂扣」関係という事だったんですね。
ジャッキーとレスリーなんて、並んでること自体が写真を見ても不思議な感じ。
レスリーはテレビ局の養成所出身アイドルで、所属もゴールデンハーベストではなくシネマシティでした。(この時期に「男たちの挽歌」にも出演してたはず・・・。)
ジャッキー、石田純一なみに素足で靴履いてる?
このウエストポーチ、お気に入りだったのかな?よく目にした気がします。
この「胭脂扣」、日本では結局未公開で、東京とかでは上映されたのかなぁ?
鑑賞する機会に恵まれず、朝の日替わりリバイバルでも、旅行期間と外してしまって、例によって、台湾ダビングものがまわってきたのですが暗いシーンが多く、さっぱり意味がわからなかったままでした。
これが、調べたらDVD化がとっくにされてたらしくて、今回、悩んだあげくに購入いたしました。
このパッケージデザインはちょっと印象がいまいち、魅力が薄い。もっと2人とも綺麗な顔があったはずなのに、センス悪いなぁ。
この映画を「知ってる」人でないと手に取らないデザインじゃないかなぁ。モッタイナイ。
日本語吹き替えはありません。
広東語一択です。作風として正解です。
レスリー・チェンは2003年4月1日に投身自殺しています。日本の沖雅也と書いてた週刊誌もあったけど。
アニタ・ムイは奇しくも同じ年2003年の12月30日に子宮頸がんの悪化で他界しました。
これはずっと全盛期だった香港芸能界が大きく変わった出来事じゃなかったんでしょうか。
実際、私も香港明星関係の情報が全くはいらなくなってた時期だったので、映画公開のニュースも以前ほど活発じゃありませんでした。
特典映像の監督のコメントはこの一言で締めくくられていました。
監督のスタンリー・クワンは後にマギー・チェン主演の「ロアン・リンユイ」が公開されてます。
この特典映像ではいろいろとこの作品がクランクアップするまでのいきさつなど興味深い内容を語っておられました。
この映画、アニタ・ムイ、レスリー・チェンW主演で香港映画では有名ですが・・・
監督交代劇、アニタ以外の出演者も実は交替しての出演だったのだそう。
現代パートから登場するカップルはアンディ・ラウとチェリー・チャン、レスリーの役はアダム・チェンだったそう。
アダム・チェン?ちょっと塔が立ってないか?って役者さんで、時代劇が多く、ユンさんの「天空の剣」の師父がわかる範囲かなぁ。
脚本が前監督が気に食わなかったらしく、このあたりの仕切り直しで時間がかかったらしく降板する役者がほとんどの中、アニタがシネマシテイ契約のレスリーをオファーしたのだとか。
このあたり、日本でいう東宝東映松竹あたりの話しでよく聞きますね。
でも、この作品、まだアイドル的な美貌が売り物だったレスリーが官能的な魅力を開眼させた映画史に残る作品になったとも言えるんじゃないでしょうか。
なんで、日本の岩波あたりで公開されなかったんでしょう。もったいない佳作だと思います。
原作者は後に「覇王別姫~さらばわが愛」の原作も手掛けたリリアン・リーこと李碧華というだけあって、文芸色を匂わせながら、ユニークな展開の現代劇にリンクさせています。
気に入ったシーンを今回もペタペタ残しながらあらすじと感想を・・・
アニタが正面を向いて化粧をするシーンから始まります。
撮影当時23才。
個性的な顔立ちで決して美形ではないアニタですが、彼女の持つ空気感がヘンな顔と紙一重の個性の良い部分を際立たせています。
私が気に入ってるのはカメラアングル。
無言でメイクをして人物が背景の一部なアングルになっていくところは、ヨーロッパ映画の気品が漂います。
1930年代。
アニタは高級娼婦。
京劇(?)の歌を金持ちの坊ちゃんの集まりに披露します。
カメラにはくすんで写っていますが、赤い絨毯、名前のかかった赤いリボン、華やかで美しい。
そこで薬問屋のボンボンの十二少ことレスリーは彼女に一目ぼれしてしまう。
日を改めたある日の娼館。
会話をするアニタ演じるユーファは奥に写ってます。
手前で身づくろいする娼婦たちの様子が、会話外でありながら彼女らの日常を表現しています。
客待ちの様子も主役のアニタは左上にかかる大きな鏡に映り込んだ姿で演技が進んでます。
この大鏡が俯瞰的な意味なのか、何度か使われる効果でした。
十二少に呼ばれて部屋に向かうユーファ。
廊下に映り込むカラフルな窓ガラスが美しいシーンでした。
ここで恋の駆け引きのような会話をしながら退廃的な空気感を醸し出す二人。
別の日には娼館に大量な爆竹を提供して花火大会のような華やかさを提供する十二少。
スポンサーなので最上階のリザーブ部屋の窓から見物。
この娼館のシーンはマカオのホテルを借りて撮影したそうで、撮影後も普通にホテルとして営業されているそうです。
今もあるのなら、この坪庭のようなパティオのある建物に行ってみたいです。
二人、部屋で何をしてるのかと思えば、アヘンでトリップしまくってる様子。
このシーンも大鏡越しに豪華な部屋の中も大写しになって、美しかったです。
で、ダラダラとフランス映画みたいな話しになるのかと思ったらそうじゃない。
ここで舞台が1987年現代の香港に移ります。
新聞局に努めるカップルアレックス・マン演じるユンとエミリー・チュウ演じるチュウのやりとりが。
深い付き合いっぽい2人に見えるけど、まだケッコンに踏み出してないと言う空気。
誕生日のプレゼントがローファーって・・・。
その場であっさり履き替えちゃう自然体な二人。もうお互い空気みたいになってるカップル?
取材に飛び出してったチュウを見送って事務所に一人になったユンが振り返ると古風な姿の女性が・・・。
尋ね人欄に広告を載せてほしいと頼むユーファ。
でも、お金がないということで退散したかと思うと、帰宅前のユンにつきまとう。
新聞局から路面電車までの坂道階段、駅からユンの自宅までの坂道、このあと出て来るるもと遊郭のあった場所への坂道。
坂道が象徴的に引いたアングルでなんども映ります。
つきまとうユーファは路面電車の中で身の上話を始める。
この路面電車のシーンも、撮影用運転なのか、ゲリラ撮影なのかはわからないけど、時折、車窓が映り、座席を写すアングルも外からだったり横からだったり・・・
トラムに乗りたくなってきます。いまもこんな感じなのでしょうか・・・。
話しの内容から、ユーファが幽霊だと気づいたユン。
ここでそれまで和んでいた空気がホラー映画風に変わります。
要求を迫るユーファの正面向きは進行方向に、
驚いて、逃げ出そうとするユンが追い詰められる恐怖感は進行方向に背を向けたアングルです。
ここは映像で見てると迫力を感じます。
ユーファの要求は、十二少と服毒自殺をしたのに、何年待ってもあの世で彼と会えないので、どこかで彷徨っているのかもしれないと待ちくたびれて尋ね人として探しに来たのだという。
それを手伝ってほしいという、けなげな幽霊のお願いだったのです。
結局家まで付れてきたので、仕事を終えたチョウに応援を求める。
現実的なチョウは幽霊だと信じられないと、証拠をみせるように服を脱ぐように要求。
ここで初めてわかって、ショックを受ける。
ユーファの悲恋話を二人は聞かされます。
世間を知らない娼婦のユーファと、親のお金で遊びに来る十二少は日がなアヘンでまったり。
よほどしっくり来たのか、両親にユーファを紹介するが婚約者もいるので猛反対に遭う。
純愛だと思って駆け落ちする二人。
初めて働き口を探す十二少は、得意の歌をいかすためにユーファの口利きで京劇の一座へ入門。
下働きからの弟子入りということがお坊ちゃまには耐えられるのかどうか。
座長もそこは見抜いていたのかもしれません。
初舞台に立つものの、もちろん「その他大勢」。
ユーファがつきっきりでフォロー。
初舞台を見に来た十二少の両親と婚約者。
「きっと、貧乏に耐えられなくなって貴方を捨てるからその前に別れてほしい」と言われ続ける。
そんなつましい暮らしを始めた中で、十二少は露店で見つけた口紅入れになったペンダントをユーファにプレゼントする。
今まで、豪華なアクセサリーを身に着け、美しく着飾っていたユーファに対してふがいなさを自覚する十二少。
泣くことが似合う頼りなさが、このとき29才のはずのレスリーがアニタより幼く見える。
3月8日の11時がここで暗号化されてるということがわかります。
ユーファの言い分を理解した二人。表情が和らぐ。
ユンを演じるアレックス・マンって、凶暴な悪役を演じてるイメージしかなかったので、こんなにも個性を消して、共演者を引き立たせる演技をする人とは思わなかったので、びっくり。
この映画の中のこの方はすごく優しい。よていされてたアンディだったら、多分、彼の個性は消せなかったんじゃないかな、と勝手に批評。
エミリー・チュウは「ファースト・ミッション」「男たちの挽歌」と、作品にも恵まれていて、良くも悪くも安定できる役が続いたと思う。
このチョウは、それまでに見たエミリーに比べると感情の表現を出すのが難しかったかもしれません。
でもね、かわいいんですよ。画面の中にいて不快感のない美人、という印象を受けます(^^)
自分が手掛かりにしていた3811という数字が番地なのかと思ってユーファは現代の香港の坂道で十二少が通りかかるかと、誰かに生まれ変わってるかと、しなを作ってすれ違う人に表情で訴えるけど、変な女性にしか思われず・・・。
昔と現代の価値観の違いを痛感させられるちょっとコミカルなシーンでした。
一夜明けて、二人は十二少の手がかりを探しに街へ出ます。
香港行きたくなる~!!
薬問屋の子孫にも聞き込み。
夜明け前、新聞が刷り上がります。
こういう働いてる場面は、工場見学好きとしては、未知の領域なので興味深いです。
依頼文が載ってるか確認。
ユーファってこういう字を書くんですね。
が、部屋に戻ると具合の悪そうなユーファ。
前の日は朝が来ても平気だったのに、この日は力が失われていく感じがするという・・・
この世にいられる時間が迫ってきているのかもしれません。
そんなユーファの話しを聞いた二人は自分たちの恋愛観を話し合う。
男と女によって共感できない部分もあるようす。
「ぼくなら彼女の愛情は重いな」と言ったあとに不可解な表情をするチュウ。
悩め悩め。急ぐことはないと思うよ、と観てる方は見守り気分です。
一夜明けて再び街へ手がかりを探しに出る二人。
なんとなくよそよそしく感じたけど・・・
彼女の方からさりげなくいつもの通りに振舞っていってました。
骨董品屋でユーファの話しの口紅入れのペンダントらしきものを見つける。
その下には・・・
ちょうど1934年の新聞が骨董品として売られていたのを発見。
しかも十二少の心中事件のことも・・・
十二少は死んでいなかったのだと判明・・・
3月8日のことを思い出すユーファ。
やはり鏡越しのシーンが美しい。
死を決意するユーファが淡々と準備する。
鏡に映る二人はこのまま遠い世界へ行ってしまうのかと思えるのに・・・
抵抗する十二少に薬を飲ませてしまうユーファ。
最後の言葉に暗号を告げる。
何かに生まれ変わっても3811で思い出してね、と。
無理心中だったとわかって激怒したのはチュウ。
女性として共感していたのに、それは自分勝手すぎると、ユーファを責める。
二人の部屋を出て行くユーファ。
もう遊郭のなくなった香港の街を歩いて行く幽霊。
責めたあとに後悔しながら号泣するチュウ。
メイクがとれて、ほぼスッピンになっていく泣き顔のアップなのにそれでもかわいいエミリー・チュウ(^^)
ここで、二人はユーファを否定せず自分たちの恋愛観を語り合う。
かつて十二少がいた京劇一座の芝居も時代の流れか気軽な物に・・・
役者になっているらしい十二少を見つけたというユーファ。
三流役者になっているという情報をもとに参加している撮影現場を訪れる。
このシーンの女優さん、顔が見えないけどベティ・ウエィらしいです。「孔雀王」とか出てたかな。
監督さんはラウ・カーウィン。あんまりよ知らなかったけど、酔拳2の監督のラウ・カーリョンの弟さんだそう。
このシーンのカメラはジャッキーとこのカメラですね(^^;)
大部屋で死んだように寝そべっている老人・・・ユーファはすぐに十二少と気づく。
コノシーンほとんど真っ暗。
対面の前に世話になった二人に別れの挨拶。
幽霊になって会いに来たユーファに決別を言い渡された年おいた十二少。
決別の言葉を言い渡して振り返らずに光の中へ消えて行く・・・
許してくれと後悔の言葉を吐く十二少。
当り前じゃ。
このやりとりを見守る二人の想いは複雑なまま・・・悲恋を唄うアニタの歌が流れます。
命を懸けて愛した相手に裏切られて、死後に受け入れるという悲しい結末をマイケル・ライの曲がエンディングを飾ります。
香港人はエンドロールを観ないのでエンドロールは無音で終わりました。
46才で自らの命を絶ったレスリーは本当の老人にならなかったけど、この年おいた十二少はレスリーの特殊メイク。
アップになるとメイク感あるのですが、動き具合とかが本当の老人かと状態の悪いビデオで観た時に思いました。
病死したアニタが同じ年の年末、この傑作を残した二人が年老いることなく、この世にもういないと思うと、作品のラストにかぶせてなお、
哀しい気持ちにさせるのです。