「1年ほど前から、部長は悩んでいた。人事部から、リストラ人員に辞表を出すようにと…役目を言い渡されて…」
「ぇ」
「言える訳無いと…でも、言わないといけないし…。奥さんにも言えず、1人悩んでいたんだ」
「それをどうして、ジニ先輩は…」
「良く酒に付き合わされて…酔うと、吐き捨てるように言ってたんだ」
「… 」
「そんなある日、酔いつぶれて自宅に帰ると奥さんがいなくて…酔いを、醒まそうとテラスにいた時…家の前に、1台の車が止まって…その中から、奥さんが出てきて…」
「… 」
「部長が、見てると…運転席から男が、降りてきて…」
「どうしたんです?」
「2人は、家の前で…抱き合い…キ…ス…を…」
「―――それ…で」
「部長は、奥さんの浮気を知ったんだ。…慌てて、部屋に入り鞄と上着を持って…――非常階段から、転げるように降りた…じゃ、無いかと」
「… 」
「降りた部長は、無我夢中で大道りまで…。きっと、何を見たのかさえ…信じられなかっただろう」
「…それで…部長は?」
「タクシ―を拾い、乗ったのだが…行き先を聞かれ…その時、忘れかけていた店の名前を口にしていたらしい」
「… 」
「我に返ったときは、店の前で佇んでいた。店に入り、コ-ヒ―を頼み…だけど、1口も口にしなかった。…其処のママさんが、閉店を告げると…部長が、お金を払おうとしたら『結構です。飲んでらっしゃらないので…』と言われた時、テ-ブルの上のコ―ヒ―を初めて見たようだ」
「… 」
「だけど、頼んだから…と言うと、ママさんが『じゃ、また来てください』と、言ったらしい。其処から、部長は店に行くようになり親しくなったようだ」
「じゃ、…その…その、奥さんの浮気の現場を見なかったら…」
「そうだ。――――その、通りだ」
「そのママさんとは…」
「逢うはずが…無かった」
俺は、その時…自分とシニョンの関係を重ね合わせていた。
人の巡り合わせとは、ふっとしたきっかけが…存在している。
けど…其処には、愛が見えて…無かった。
つづく
