ほどなくして、
その重厚な扉は、開かれた。

アキの目線のすぐ先には、濃紺のスーツを綺麗に着こなした、年の頃なら30歳前後の男が立っていた。

男は素早く、アキを上から下まで見渡し、照れたように笑って、招き入れるジェスチャーをした。

男は取り立てて、いい男という訳ではないが、汚らしい中年という訳でもなく、その容姿があまりにも普通過ぎて、アキはほっと安心するのと同時に、拍子抜けしてしまった。

「どうかした?」

思わず、あれだけ反芻していた挨拶も忘れ、茫然自失なアキに気づいた男が笑い交じりに、問い掛ける。

我に帰ったアキは慌てて、挨拶をした。

「あ、あの初めまして。あ、アキです。今日はありがとうございました!」 
アキは、自分でも驚くようなすっとんきょうな声を出し、おまけに深々とおじぎをしている。

男は面食らった後、苦笑し、スーツの上着の内ポケットから、黒革の長財布を取り出した。


「君、さっき聞いた通り、こういう仕事、本当に今日が初めてなんだね。」

男は、感心したふうに頷きながら財布からお金を出すと、アキの手をそっと掴み、その手にお金を優しく握らせた。


「部屋に着いたらまずはお金を真っ先にもらうこと。言われなかった?」
男は優しく微笑んだ。