京より奉先縣へ赴く詠懷五百字の訳
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長安の郊外の杜陵に、老いぼれた私は、
まったくたわいもないことばかり考えている。
内心では、舜帝の賢臣ほどにも思っていたとは、全く愚かなことだ。
空しさで髪も白くなり、貧乏暮らしから抜けられない。\\
死んでしまえばそれまでだが、もう一旗あげたいものだ。
しかし、民のことを思えば腹の中も煮えくりかえってくる。
同年代の者から笑われれば笑われるほど、私の怒りの声は大きくなってくる。
世を捨てて、隠遁生活をと考えぬでもないが、
もし、堯舜のような聖人の世に生まれていたなら、
けして世捨て人なんかにはならないだろうと気を取り直して奮起してみる。
今や、政府は、良い人材と、豊かな材料に満ちている。
向日葵が日の光に寄るように、ものの本質は普遍なのだ。
世の虫けらのような人物は、そのあなぐらを求めてさえおればいいのに、
どうして私は、大鯨のようにやたらと大海を泳ぎ回ろうとするのだろうか。
世の理というもは分かってはいるものの、
身分の高い人に取り入ることは恥と考える。
今まで一心不乱に生きてきた。あとは老いぼれて塵芥のように死ぬだけだ。
昔の賢者には及ばないが、自分の考えを枉げるつもりはもうとうない。
さあ、酒と歌で気分を紛らわそう。
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歳晩、枯れ尽くした岡を冷たい風が吹き抜けていく。
暗く静まりかえった長安の衢を旅人が出発する。
寒さは厳しく緩んだ紐さえ結ぶことができない。
凍るような夜明けに、驪山に差しかかる。
%玉座は山の頂に浮かび上がってくる。
玄宗皇帝の御椅子は、高々と聳えている。
安禄山の反乱の起こる気配(蚩尤の旗雲)が寒空に立ち籠め、歩けば崖や谷は滑べる。
温泉には湯気が立ちこめ、兵士らは旗竿や儀仗(武具)の音を響かせている。
君と臣はここに留まって楽しみに耽り、音楽は天にも届かんばかり。
常に温泉や美食にあずかれるのは、偉い人たちばかりである。
宮中の庭で臣下に下される帛(きぬ)は、貧しい者たちがつくった物。
その主を鞭たたいて城内に集めた物である。
天子が竹籠に入れて下されるのは、国が活気づくようにとの願いからで、
臣下がもし政道を忽せにするならば、天子はまさかこの品物を棄てるつりではあるまい。
(天子より、賜った物を棄てるようなものだ。)
朝廷には人物は多い、仁政に励む者は、謙虚に考えるがよかろう。
ましてや、宮中の財が、臣下の懐にあるなど。
奥座敷では、美女が舞を舞っており、うす絹が玉のように美しい肌に紋様を描いている。
そこでは、客を持てなすのに、毛皮の衣、美しい音楽。
異国情緒あふれる鍋料理。薫り高い柑橘類。
このように有り余るほどの贅沢さの一方で、路上に凍死する者もあるのだ。
栄枯は、紙一重の違い。こんな現実を絶対に許せない。
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北上して\CID{8516}水と渭水の方へ向かも、官渡の位置が変わりいつもとは違う道を辿る。
西よりの流氷を目にしたが、その量は計り知れない。
\CID{17563}\CID{14483}山からきたものだろうか。この国の柱も折れんばかりである。
河の橋はまだ壊れてはいないが、不気味な音を立てている。
旅人は心を一つにして助け合うけれども、川幅は広くなかなか渡りきれない。
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妻子を遠く以北に避難させ、家族と会うことも叶わない。
誰が好き好んでこんな生活(家族の世話もできない)をしていられよう。
一刻も早く行ってやり、家族を支えてやりたいものだ。
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やっと帰り着いてみれば、家人の泣き叫ぶ声に末の子がなくなったことを知り、
私は、悲しみと怒りを堪えきれない。村人も又嗚咽してやまない。
恥ずかしく思うことは、人の子の親として食べものがないために、
幼子を死なしてしまったことだ。
秋の実りがたたわなのに、貧しい者には行き渡らないことがあることを、
どうして予想ができなかったのだ。
租税と兵役の免除のこの私でさえ、こんな辛い目に遭うのだから、
ましてや、農奴の人々の暮らしはとんでもないものであろう。
黙して失業の輩(兵役の人ら)を思い、遠い地へ赴いた兵士の身を案じる。
憂いは、終南山を遙かに超んばかりに深く。
虚ろなその気持ちは、もはや\CID{5061}めることなどできはしない。