アメリカはイラン戦争において戦術的勝利、戦略的敗北の姿を晒すことになった。イランの切り札は無論ホルムズ海峡とバブエルマンデブ海峡の封鎖による世界経済の破壊である。出口戦略を持たないアメリカの戦争への反撃、それは切り札を使いながら長期戦に持ち込むことで充分に可能になる、と云う計算だろう。その戦略を覆す方法はより長射程の知恵のある戦略眼が決め手だがトランプの最も苦手な内容になる。
つまり既にアメリカの敗北は確定的なのだ。ウクライナに侵攻したロシアのプーチン同様に始まった時、既に戦略的敗北が決定している。一体どのような引き際があるのかまったく分からない。中途半端な一方的撤退になれば、後々世界中でアメリカ関連資産へのテロ攻撃の形で戦争は継続するだろう。ロシアが120万人と云う死傷者を出しても戦争を止められないように、戦争の出口の作り方は困難を極める。大国の権益は世界に広がっているからこそ大国なのであり、民間企業を含めた全体を防衛するなど不可能なことだ。
クラウゼビッツの「戦争論」でもヒトラーの「我が闘争」においてでも戦争は先ず敵国の悪魔化を国内世論向けに大宣伝する必要がある。邪悪な神の敵、人民の不倶戴天の敵、と云った言葉がフェイクを交えてマスメディアにより執拗に喧伝されることから全ては始まる。人を殺す、と云う心理的な壁の除去無しに戦争を継続することはできないからだ。戦争準備中の国家においてこの種の世論対策が進めば周辺国は嫌でも防衛処置をとる他ない。ハイブリッド戦争の入り口は極近い、と云う証明でもある。
出口無き戦争。イスラム教シーア派の国イランと福音派キリスト教が影響力を行使するアメリカとの組合せは容易に終戦には向かわない。イランの憲法では世界全体はイスラム法によって支配されるべきでありイスラエルの絶滅、大悪魔アメリカの破壊を国家目標に掲げている。一方のアメリカの福音派は世界の終わり、最終戦争の後にこそ理想の神の世界が来ると云うカルト的教義を信仰している。話し合いで解決、などと云う楽園主義の入り込む余地はほとんどない。
世界経済の減速は避けられない。あらゆる資材は不足し、エネルギー需給は日々逼迫する。節約に舵を切るくらいでも各国のGDPは下降せざるを得ない。どこまで続くのかでそのダメージの深浅は変わるが短期収束の可能性ならかなり希薄だ。そのことは覚悟した方が良さそうだ。
川口