「道化師の地下室へようこそ」
ピエロのような白い仮面を付け、椅子に拘束された男の前に立つこの部屋の主は甲高いザラザラとした声をしていた。
おそらく仮面の裏にボイスチェンジャーを仕込んでいるのだろう。機械特有の無機質さがある。
おおげさに手を広げて、お辞儀をするピエロの姿は、どこか相手を小馬鹿にしている様で不愉快なものだ。
「あんた誰だ…」
拘束という非日常を受けながらも男はどっしりと構え、落ち着いた声で話しだした。見た目は頼りないが胆は座っているらしい。
「名前はないのです。だから名乗れない」
「ふざけてるのか?」
男は腕を動かしてガチャガチャと枷を鳴らす
外れそうにないと分かったのか目の前のピエロを睨みつける。
「これ外せ」
「いいねぇ~その強気な態度…実に男らしい」
「ふざけるな。すぐにこれ外せ」
「いやだね。あんたを放したらそこで終わり。それじゃあつまんないよ」
睨みつける男に対してピエロは終始ゆらゆらと揺れながら楽しげにしている。
足元がおぼつかず、前後左右に動いている。
あんまりゆらゆらしているから見ているこっちが酔いそうなくらいだ。
「そうだな~」
ゆらゆらと、ふらふらとしながらピエロは喋る。
「道化師と…お呼び下さいませ。お客様」
「道化師?」
男はいぶかしげに聞き返した。眉を寄せ困惑する。
「そう、道化師と。僕はずっとずっとず~と…道化を演じていますから」
「ふざけるのもいい加減にしろ!」
男は怒気を込めた言葉をぶつけるが道化師は相変わらずゆらゆらと落ち着きなく揺れている。
「マジメもマジメ、大まじめ」
鼻歌さえ歌いはじめた道化師はズボンのポケットからゆっくりとナイフを取り出した。
「ふざけた遊びでこんな事しないっ…」
しゃべり終わると同時に、道化師はふらつきを反動に変えて素早く男に飛びつくと喉にナイフを滑らせた
「なっ…」
「大丈夫…ちょっと薄皮一枚切っただけ…」
耳元で囁く機械仕掛けの声は、興奮でかすれているようにも冷徹に相手を探っているようにも聞こえる。
喉からしたたる血に濡れるTシャツからは強い鉄の匂いが漂い、地下室を満たしていった。