※この、お話はアマサワが別人となり、観た夢の内容です


アマサワ本人の体験では無く、


1つのストーリーとして お楽しみくださいませ🙏✨















重い質感の 緞帳(どんちょう)が幕を開け 



いずこかで奏でられる楽曲が芝居に華を添える



何の芝居だろう?



わたしは 迂濶にも芝居のタイトルさえ確認せず席に着いた事を悔いた










舞台には数人の男女



老いも若きも 年齢が様々な人々が台詞を語っている



話の内容は 酒に酔った父親が 荒れて家族や妻に当たり散らす話



やがて長男は家を出て上京し 結婚して実家を離れるという筋書きだった



年 数回 母親と電話で話はするが 10年以上 長男は父親と口をきこうとしない…



何故だろう…筋書きの主人公の長男の境遇は わたし自身の境遇に よく似ていた…



やがて 酒で肝臓を悪くした父親が入院



母親から長男に電話が かかる…



しつこい程に言われる








『…お父さんに会いに来てやって欲しい』と








入院した先の病室で 長男は渋々、父親と再会する



幼心に あんなにも恐れていた父親が 老人のように萎んでしまった姿に愕然とする…



…よくある話だ 特別に珍しい筋書きでは無い



しかし 父親の役者の背格好 母親の役者の話し方 



主役の長男の服装迄もが わたしたち家族に酷似していた…



いたたまれない気分になって わたしは席を立とうとした



すると 



闇の中からシルクハットの静かな人影が わたしに歩み寄り



囁いた
 









『これは 人生劇場



この地上 数多の人々が出演する芝居です



すべての人々が 主役



そして また脇役、



この芝居には本来 観客と言う概念は在りません



≪生きた人間≫には…










しかし 今夜の あなたは 例外…



この芝居を観る客席を ご覧なさい



ほら 



1つとして客席に『空き』は有りません




次の芝居が 始まる迄は 立ち見すら許されないのが



当劇場なのです…』









シルクハットの男は 両手を広げて客席を指した



確かに どの席も満席で 青白いライトに照らされた観客たちが 真剣に芝居に観入っている



わたしは ふと、自らの行いを不謹慎に感じられ 



浮かしかけた腰を 改めて席に降ろした



支配人の男は わたしの隣で じっと静かに芝居を観ている



この劇場には こんな真夜中であるにも関わらず 客席に空きが無い…



よほど名の知れた役者たちが揃った名演なのだろうか?



疑問に感じながら わたしはシルクハットの男に目を向けた



壮年なのか 初老なのか 



男の年齢は皆目 見当が つかない



アジア人なのか ヨーロッパ人なのか どうかすらも…



しかし 明るく輝く 両の瞳の紫が 



わたしには 彼が異国人であるとの印象を与えた



彼は 再び言った 厳かな声で









『この芝居が終わるまで 決して、客席に空きは出来ません』と



『立ち見すら 許されない 厳かな芝居なのです』と…



そして 幕間の時間に 一人 老人が席を立ち 劇場を出て行った



すると すかさず若者が 老人の座っていた席に座った



また一人 若い母親が幼子を抱き上げながら席を立った



すると また 別な若い娘が席に座った



誰かが席を立つと 必ず また別の誰かが 席を埋める…



何かしら わたしは奇妙な感覚を覚えた



それを しかと言葉には出来ないのだか……



ある種の奇妙な…まるで、



畏れのような…










脳内で疑問符を飛ばし続けていた わたしに



シルクハットの男は言った



まるで生徒に正解を告げる、教師のような振る舞いで









『この劇場の客席は 地球



この客席は限られた人数分しか 用意されてはいないのです



物量として 地球は



《限られた世界》なのですから…



誰か が席を立てば また新しい誰かが 席を埋める



決められた理(コトワリ)が  この地球を動かしています…



けれども ご覧なさい 劇場の周りは 人々で 一杯だ



早く芝居を見たい人々と



まだ席を立ちたくない観客とのバランスに



私は毎夜、四苦八苦しています










…あなたは この芝居を《堪能》されましたか?



この劇場は 決して《再入場は 許されない劇場》なのですよ…?』



わたしは ハッとした



その男の声と 明るい紫の瞳を 目に焼き付けようとした



とたんに暗転 !



目の前が 真っ暗になり



次の瞬間わたしは













見ず知らずの真っ白な天井を見上げていた…








◇◇◇◇◇







??!



目の前には いくぶん痩せた妻の顔が在る



娘の両目には 涙が…



娘が叫んだ



『お父さん!!」



わたしは緩慢な動作で娘を見る 



首を動かすだけで こんなにも体力を使うとは…いったい…?



娘は目を真っ赤にさせながら わたしの左手を握っていた



その左腕には 親父がくれた腕時計は無い…



わたしが成人し 都会で就職し 



罪滅ぼしのように送って寄越して来た



母の文字で書かれた伝票の箱の中の 



ROLEX…



それは今 きちんとベッド・サイドに置かれていて 



そのガラス板には、何故かヒビが入っていた



…………?



ぼんやりと昨夜の記憶を辿る



不可思議なメトロ



暗闇の地下道



地下道の先の奇妙な 劇場【亜空間メトロ・シアター】



その不思議な夜の中の 支配人の男…



印象的なシルクハットの姿と 紫の瞳



青白い顔をした大勢の観客たち…



わたしは どうやら短い夢を観ていたらしい



右腕に巻かれた 真っ白な包帯…



これは いったい…?











涙声で妻が言った



「あなた…事故の時の記憶は あるの?」



事故 と聞いて 記憶が急激に蘇る



地下鉄に乗る為に急いだ深夜の車道



右折して来た車と横断歩道中の わたしは 接触し



それから…



それから…?








しばらくすると 慌ただしい音を立てて病室の扉が開き 



萎んで小さくなってしまった親父と 



それに付き添いながら母が わたしのベッドへと駆け寄って来た



肩を震わせ涙声で わたしの安否を尋ねる父母の姿に 



わたしは家族に 迷惑と深く心配をかけてしまった事を理解した



シルクハットの男は言った









《ひとつの芝居が終わるまでは 決して立ち見を許されない劇場》



思わず腰を浮かしかけてしまった わたしだが



≪退席≫しなくて本当に良かった……!








今しばらく じっくりと客席に腰を着けて



わたし自身の 人生という芝居を観てみよう









◇◇◇◇◇◇








不可思議な夜の中の 【亜空間メトロ シアター】は


今夜も何処かで 新しい観客を待つのだろうか?



青白い蛍光灯の光に照らされた家族の顔を見上げながら



わたしは いま 自分が



命在る 地上の演者で在る事を



急激に自覚した








 

(終)







◆◇◆◇◆◇◆◇




2013年頃、一晩の夢で見たストーリーになります


当時は他ブログで発表していたのですが


最近、立て続けに親戚が亡くなり


ふと、このストーリーを思い出しましたので再掲載いたしました


自身の座席を 新しい誰かに譲ることは、尊いことだと思うからです✨







『人生とは 正にドラマ


地球という丸い舞台の中で行われている厳かなる演目✨


お付き合いくださいまして、誠に有り難うございます✋🎩🍷✨



亜空間メトロ・シアター支配人より✨✉️✨



支配人(CVイメージ 黒田崇也さん)✨