秘苑 31 | 水脈のブログ

水脈のブログ

読みきかせ記録(絵本等の紹介)と、自分の心に生じた想いや、刻まれた記憶を思いつくままに綴っています。
当ブログ開設当初から好きだった東方神起やジェジュン、ユンジェに関して。そして、2021年以降は、防弾少年団(バンタン:BTS)のことに、思いを馳せることも。

脈を取っていた医師がうなずいた。

「もう、大丈夫でしょう。」

その場に、ホッとした空気が流れた。

医師は退室し、
ユノは、体を起こした。

「怪しい奴が、弓矢で…。
ジェジュン邸下は、
大丈夫なんですね?」

「ジェジュン様は、このとおりじゃ。

ジェジュン様の叫び声を聞いて、
私が駆けつけた時は、
もう、曲者は逃げた後じゃった。」

うれし涙を流し、
しゃくりあげているジェジュンに代わり、
洪(ホン)尚膳が、答えた。

「東宮殿は、一部消失してしまったが、
風も弱かったせいか、
幸い、他の建物への延焼をくい止めて、
鎮火できた。

どうやら、
世子邸下のお命を狙う何者かが、
火事場の混乱に乗じ、ことを起こそうと、
ネズミを使って、つけ火をしたようじゃ。」

尚膳は、声を少しひそめた。

「実は、
火災現場で発見されたネズミと同様の
世子邸下への呪詛が書かれた札を
尾に結んだネズミが、
敬(キョン)嬪・沈氏の部屋で見つかって、
騒ぎになっておる。

よもや、
あの温厚で聡明な敬嬪様が
このような暴挙をなさるとは、信じられんが…
今、詳細を調べている最中じゃ。」

ここで、言葉を切ると、
洪尚膳は、威儀を正し、
ユノに向かって頭を下げた。

「ユノ殿には、
一度ならず二度までも、
世子邸下の命を助けていただき、
心より御礼申しあげまする。

我が ホン ソクチョン の名にかけて、
重ね重ねのご恩に報いるべく、
粉骨砕身、努めますぞ。

ジェジュンが無事であったことに安堵し、
ようやくユノは、我が身を見た。
あれっ?
あの時、
矢は、自分の胸に確かに当たった はず…
でも、
どこからも、血は流れていない!?

アッ!と気づいて、
胸元から、手鏡を取り出した。

手鏡には、
想像上の動物であり、
正義の象徴とされる「ヘッテ」が、
美しい螺鈿細工で描かれていたが、
その体には、矢じりの跡が生々しく残り、
鏡面は、割れてしまっていた。

父から渡され、そのまま
形見となってしまった手鏡。

司憲府(サホンブ)の官吏の
官服の胸背(ヒュンべ)の図柄としても
刺繍されている「ヘッテ」、
ボクを護り、
身代わりになってくれたんだ。

司憲府の官吏として、
その仕事に、誇りを持っておられた父。
厳格で、でも、家族思いだった父。
そして、その父を支え、
常に優しい笑顔で、
慈しんでくださった母。
改めて、両親を思い出し、
感謝の念が湧いてきた。

鏡面は、割れてしまったけど、
修理して、これからも大切に持ち続けよう。
そう思った。

その時、
鏡面のかけらが滑り落ち、
中から、折り畳まれた1枚の紙片が、
顔を覗かせた。