「そういえば先日、3年間も付き合ってた彼女と別れた。
うん、それはすごく突然だったけど、あまりにもあっけなかったなぁ…。
でさ!聞いてよ!!なんか昨日、ヒチョルにその話したら、すっごい睨まれて!
まじで怖かったんだから~!こんな、こーんな目してた!!」
サークルの先輩であるイトゥク先輩が、ほろ酔いの中昨日の話を振りだしてくる。
ドンへはまだ未成年のためオレンジジュースしか飲んでいない。
さっきから「ヒチョル」という男がしてたであろう目つきを、指で釣り目を作りながら話すイトゥクは、まるで一人芝居のように話し続ける。
『ねぇ先輩。そろそろヒチョルっていう人紹介してくれても良くないですか?
先輩の話に何回も出てくるし…』
「だ、ダメだよ!ダメダメ!あいつドンへのこと気にいると思うけど…
やだ!!絶対やだ!!ダメダメダメ!!!」
ほろ酔いというよりも、酔っているイトゥクは、普段は先輩後輩でけじめをつけている。
それだけ辛かったのかなと、イトゥクをなだめながら、オレンジジュースを口に運んだ。
ふと腕時計に目をやると、もうすぐ日にちが変わりそうになるのに気付く。
『先輩!ちょ、俺帰んなきゃ!!ねこっ、猫のことすっかり忘れてました!!』
「えー?ドンへ猫飼ってるの?見に行きたいなぁ~^^」
酒臭っ!と心の中で叫びながら、へばりついてくるイトゥクを無理やりはがす。
『ん~・・先輩!携帯貸してください!』
「え~?どうぞ~」
フラフラした手つきでポケットからスマートフォンを取り出し、スマートフォンの中にある電話帳から「ヒチョル」の名前を探した。
でもいくら探してもなかなか見つからない。
「先輩、ヒチョルさんをなんて名前で登録してるんですか?」
『レラ!』
イトゥクはドンへの質問に即座に答えて、また酒を飲む。
変な名前、と思いながらも、表示された電話マークに軽く触れる。
プルルという機械音を数回聞いてからプツンと途切れて、「あ?」と不機嫌そうな声が聞こえた。
『あ、あの、イトゥク先輩の後輩のイ・ドンへです。イトゥク先輩が酔ってて・・・あの、手を貸してくれませんか・・』
「ドンへ?・・あぁ、そこどこ?」
『あっ、居酒屋です!――』
数分後、しましまのTシャツに青いパンツでやってきた美形の男性が、ずかずかとイトゥクとドンへの元へ歩いてきた。
まさかイトゥクから聞いていた「ヒチョル」が、こんなかっこいい人だとは思っていなかったから、
本当に「ヒチョル」なのかとジロジロ見つめた。
「あっヒチョラ~!なんでお前ここにいるの?ふふっ^^あ!俺に会いに~??」
イトゥクはヒチョルを見るやいなや、目をとろんとさせてヒチョルの腰に抱きつく。
それを鬱陶しそうにしながら、ヒチョルはドンへの方に顔を向けた。
「悪い。こいつからきみのことはよく聞いてる。俺はキム・ヒチョル。よろしくな」
『あ、はい!イ・ドンへです。よろしくお願いします』
綺麗な手が差し出されて握手をした。
ヒチョルはやれやれ、とイトゥクの腕を自分の肩に回して、一緒に店を出た。
「じゃ、またな」
『はい、気を付けて・・』
ヒチョルの乗る車が颯爽と走って行くのを見送ると、ドンへはまた腕時計を見てから猛ダッシュした。
▽
『ウニョガ~ただいま~』
部屋に入ると、つやつやとした毛のウニョクが、にゃあと鳴きながらドンへの足にすりすりと懐いてくる。
そんなウニョクを抱きかかえてベッドにダイブする。
『なぁウニョク聞いてよ。今日イトゥク先輩の友達に会ったんだ~。すっごい綺麗でさ・・・
あ、男なんだけど!見惚れたっつか…』
ウニョクはドンへの話す言葉をまるで一言一句わかっているようにドンへを見つめ、またすりすりとドンへの胸に懐いた。
『あー明日は午後から講義だ…』
寝返りを打つと、ウニョクはドンへの顔をぺろぺろと舐めはじめる。
くすぐったくてつい身を捩じらせた。
開いていた小窓から冷たい風が入ってきて小さく身震いしてから、近くに放り出されているカーディガンを羽織る。
『ウニョク。なんでお前は捨てられてたの?寂しくなかったか?
少なくとも俺なら、寂しくて悲しくて、どうしようもなかった。
あぁあ。こんな広い部屋に一人って、結構寂しいんだよ?
でも今はウニョクがいるから平気…』
ウニョクに言葉はわかるはずないから、こんな風に話しかけても意味ないのに。
ウニョクは相変わらずドンへにすりすりと身体を擦り付けてきている。
それを愛しそうに見つめながら、いつのまにか眠りについた。