ある晩のことである。その娘ピアニストのところへ、宮廷のさる貴婦人が密かに訪れたという。
それも「深夜」にである。
その貴婦人が、何を言いに来たかというと、こういうことだった。
「私は、たしかにあなたの母親なのよ。
このお腹をいためたあなたは、間違いなく私の娘なのよ」
そういってから、思い入れたっぷりに、こうも言った。
「でも、駄目なのよ。
だって、リストはただの<平民>なのよ。
宮廷ではね。
宮廷では、貴族以外は、人間だとは認めてないのよ。
ピアノをいくらうまく弾いてもよ。
そんなものは、練習さえ、しっかりやってれば、誰だってヴィルトゥオーゾにでも、なんにでもなれると思っているんだから。
もちろん、最初っから、ピアニストが練習することは認めてないわけ。
だから、ピアノを弾く人は、どんな曲でもいきなり弾いて聴かせるのが当たり前だと思っているのね。
あなたも、これからが大変ね。
でも、頑張ってちょうだいね。
宮廷の中にも、モノをみる目を持っている人だっているわよ。
楽しみだわ。
あなたの、リストのような<弾きっぷり>をみせるのがね」