インドでの買い付けは、トータルで見れば順調に進んだと言える。
ガラスや革製品が非常に安く
恐らく、メジャーなブランドがインドで商品作製を行っているのだろう。
技術力が引き上げられていた。
ただ、梱包状態の改善が必要とされた。
船便でコンテナに積むときは、ダンボール箱が縦に積み重ねられるため、一つ一つの箱と梱包にある程度の強度が必要だ。
インドにはエアパッキンや発泡剤がない。もしくは高価で梱包材料にはできない。だから、新聞紙を利用することにした。
新聞紙を利用した梱包方法をメーカー側に説明するのが大変だ。
マリもさすがに苦労しているようだった。
国民性がルーズなうえに、インド人特有の巻き舌英語が聞き取りにくい。
インドでの初日、僕らはへとへとになりながら、やっとの思いで2メーカーとの交渉を終え、倒れ込むようにホテルにたどり着いた。
1日で2メーカーでは、目標までに3週間かかってしまう。
そこで2日目。
僕らは
現地でエージェントを雇い、交渉をしてもらうことにした。
エージェントの介在により効率は飛躍的にアップ。
2日目は10メーカーとの交渉を成立させ、5日間の滞在中までに適度なボリュームを見込めるようになった。
その夜
僕とマリは、エージェントをもてなそうと、彼の知る店で祝杯をあげることにした。
クスクスとカレーが上手い店だ。
安心感と疲れから、僕とマリは掃除機のようにクスクスとビールを飲み込んだ。
もてなされるはずのエージェントが呆れるほどだった。
満腹感で落ち着くと、エージェントの彼は、僕らは恋人同志なのかと聞いてきた。
僕は、仕事のパートナーだけど、そう恋人ではないと答えた。
すると彼は、君たちはそうなるべきだと言った。君たちは非常に相性が良い。考え方も考える段取りもピッタリだ。体の相性も良いはずだ。と。
僕は、なぜ体まで相性が良いと言えるのか。と聞いた。
彼は、君たちが惹かれあっているからだ。彼女は君に内包されたがっている。そして、君は彼女を取り込むことができ、それを望んでいる。と答えた。
今度は、マリが聞いた。
どうしてそんなことが分かるの?惹かれ合っているのは、どういうところから分かるの?
少し挑戦的な言い方だ。酔って冷静さを少し欠いているのかもしれない。
君は彼にあこがれている。彼の振る舞いに共感し、彼が導いてくれることを信じ、彼を慕っている。と彼は答えた。
僕は、彼のその言葉を聞いて
素敵な分析と表現だ。と言った。
僕がマリを内包へ導くべきなんだね?と聞くと、彼はそうでしょう?という具合にマリに促す素振りをした。
マリは、おかしな国でおかしな人。とだけ言い、僕は不思議な真理に出会うことがあるものだと思っている。と言った。
彼は、君のその言葉はマリのためにあるんだね。と言って満足そうに笑った。
そのまま、しばらく誰も話さなくなった。
クスクスとビールが並んだテーブルを囲んでそれぞれが各々の思いに時間をやり過ごした。
僕は、彼のいまの言葉を理解して、彼のように優雅な考察を得るべきだと考えながら、実際に考えていた。
そして、マリは
そうなの。彼の言葉は、いつもわたしを導くの。と唐突に言った。
なるほど。僕は、知らず知らず、マリを導くための言葉を投げかけていたのか。と思った。
そして、マリはいつも導かれるための答えを応えていたのか。
僕は、なるほど。おかしな国でおかしな男から綺麗な答えに出会ったものだ。と言った。
マリは、ありがとうと彼に言った。
彼は、僕はエージェントさ。客観視のプロフェッショナルだよ。と答えた。
それに
マリは健全で聡明で少しだけ攻撃的だ。それは、女性としてとても魅力的なことだ。そして何より美しい。
そんなに魅力的な君のことを応援しないわけにはいかない。
と言った。
そこまで追求できるなら、マリを落としてみようと思わないのかい?と僕が聞くと
実にそうしたい。と彼は即答した。
しかし、それはできない。彼女は、すでに君に内包されつつある。言い換えれば、抱かれつつある。
僕は、ベッドの二人の間に入ろうとは思わないからね。と答えた。
僕は、深い溜め息をついた。
マリも深く溜め息をついた。
彼は、トイレに行くといって席を立った。
不思議な国。とマリが言った。
確かに。不思議な国の不思議な店で不思議な男と不思議な話をしている。僕は答えた。
そして、
give me your everything tonight
とマリが言った。
僕は、また深く溜め息をつき、マリの瞳を見つめた。
長い間横たわっていた、僕とマリの間の壁は、知らぬ間に薄くなっていて、今夜は完全に消えしまうだろうと思った。
つづく