妹友『…お兄ちゃん、今…なんて言いました?』

男「……。」

妹友『妹?…あれ、なんでしょう…』

妹友『涙が…なんででしょうか』

男「……。」

妹友『妹…妹…妹…』

男「俺の…大切な人の…名前だよ」

妹友『う…うー…』

男「…妹友ちゃんにとってもね」

妹友『…妹…うー』

男「…思い出した?」

妹友『…はい…妹、忘れてなかったよ、私』

男「……。」

妹友『忘れるわけ…ないじゃんか…』

男「…うん」

男「…妹友ちゃん、頼みがあるんだけど」

妹友『大丈夫です、分かってます』

男「…そっか」

妹友『私、いい子でしたから、きっと大丈夫ですよ』

男「はは、だったら良いな」

妹友『…早く寝ないと、悪い子になっちゃいますね』

男「そうだな」

妹友『お兄ちゃん、また明日、遊びに行きますから』

男「…待ってるよ」

妹友『はい、じゃあまた明日』

男「じゃあね」

プツッ

男「……。」

ミャー

男「…はは、お前ははじめから覚えてたのか?」

……………………

…………

……

ピピピピピピピピ

男「……。」

ピピピピピピピピ

男「……。」

ピピピピピピピピ

男「……。」

ピピピピピピ カチッ

男「……。」

男「…なんだ、目覚まし、俺が止めようと思ったのに」

妹「……。」

男「…おかえり、妹」

妹「……。」

男「どうした?」

妹「…なんで私、ここにいるの?」

男「…なに言ってんだ」

男「忘れるなって言ったのは、お前だぞ」

妹「……。」

男「わがままにはなんだって付き合うって言っただろ?」

妹「…うん」

男「たく、世話の焼ける妹だ」

妹「…にいさん」

男「ん?」

妹「…えへへ、ただいま!」

男「…おう」

妹「…なんで、私のこと覚えてたの?」

男「そうだな…たぶん、サンタが結構いい加減な性格だったせいじゃないか?」

妹「…え?」

男「いや、父さんすでにいないのに妹だとか、妹友ちゃんも違和感に気づいてたし…結構記憶操作が適当だったからさ」

男「妹が消えるときも、結構矛盾が出るんじゃないかと思ってね」

妹「え…でもそれだけで…」

男「…ま、細かいことは良いんだよ」

男「俺は妹を忘れなかったし、妹は今ここにいる…それだけで十分だ」

妹「…うん!」

ピンポーン

妹友『あ、あれ…私、今なんでお兄ちゃんって…』

男「忘れてる…大切な人…妹友ちゃん…一緒にいた…キーホルダー…お兄ちゃん…」

妹友『あ、でもお兄ちゃんって男さんのことだから良いんですよね…ちょっと呼ぶの恥ずかしいけど』

男「寝るな…サンタに願い事…クリスマス…ミャー…一人で散歩…サンタ?」

妹友『…で、でも、なんで私、男さんのことをお兄ちゃんなんて呼んでるんでしょうね?』

男「サンタ?…願い事?…去年のクリスマス…俺は何を願った?」

妹友『…お兄ちゃん?どうしました?大丈夫ですか?』

チャラ

男「…半分のキーホルダー…花の絵」

妹友『…お兄ちゃん?』

男「妹友ちゃん、花の名前に詳しい?」

妹友『え?…まあ、花を描くのが好きなので、多少はいけると思いますけど』

男「えっと…漢字で、勿体ないの一文字目に…半分しか書いてないけど、これはたぶん、無しって漢字なんだけど」

妹友『…それは、勿忘草ですね』

男「…わすれなぐさ」

妹友『綺麗な花ですよね、名前の意味はそのまま花言葉にもなってますよ。勿忘草の花言葉はですね…』

男「…私を、忘れないで」

妹友『あ、知ってたんですか?』

男「……。」

妹友『…それで、勿忘草がどうかしましたか?』

男「……。」

妹友『…お兄ちゃん?』

男「……。」

妹友『具合でも悪いんですか?』

男「……。」

妹友『…えっと、大丈夫ですか?』

男「……。」

妹友『…救急車、呼びましょうか?』

男「……。」

 『無理だよ…』

 『だって、忘れちゃうもん』

 『私の存在が、みんなの記憶から消えちゃうの』

 『私がいなくなっちゃうのは…しょうがないことなんだよ?』

 『ね、そうでしょ?』

 『どうしたって、私はみんなから消えちゃうんだから…』

 『だから、何を言ったって…しょうがないんだもん』

 『みんな、消えちゃうんだよ?』

 『だからね…だから…』

男「……。」

男「……。」

男「……。」

男「…馬鹿野郎」

男「…やっぱり、忘れねえじゃねえか、妹」 

男「…妹友…ちゃん?」

妹友『あ、はい…そうですが』

男「久し振り…ってわけでもないか、昨日遊んだばっかだもんな」

妹友『……。』

男「…ん?」

妹友『えっと…男さんですよね』

男「そうだけど」

妹友『すいません…私、あなたのことを、あまり覚えていなくて』

男「え?」

妹友『でも…私のメモ帳に絶対電話するようにって書いてあったんです』

男「…妹友ちゃんもか」

妹友『え?』

男「いや…だから、電話をくれたんだ」

妹友『…はい』

男「昨日一緒に遊んだことは覚えてる?」

妹友『…はい』

男「夏に海に行ったことは?」

妹友『え?…あ、はい、確かに行きました』

男「…なんで妹友ちゃんは、俺らと遊んだんだろう」

妹友『それが…分からないんです』

男「いつ知り合ったのか、どうやって知り合ったのか…」

妹友『……。』

男「…分かんないか」

妹友『…私、毎日日記を付けてるんですけど』

男「…うん」

妹友『その日記…いつも「お兄ちゃん」のことが書いてあるんです』

男「……。」

妹友『…お兄ちゃんって、男さんのことですか?』

男「…お兄ちゃん」

―イサン

男「つっ…」

妹友『どうかしましたか?』

男「いや、大丈夫…」

妹友『やっぱりお兄ちゃんって、男さんのことですよね?』

男「…そうだと思うよ。確か、そう呼ばれてたし」

妹友『…そうですか』

男「…その日記、俺以外のことはなにか書いてない?」

妹友『……。』

男「妹友ちゃん?」

妹友『…男さん』

男「…なに?」

妹友『私…誰か大切な人のことを忘れてる気がするんです』

男「……。」

妹友『私の日記…ほとんど何も書いてないんです』

妹友『毎日書いてたはずなのに…ぽっかりと抜けちゃってるんです』

男「……。」

妹友『おかしいですよね、書かれてるのはお兄ちゃんのことと家のことばかりで』

妹友『お兄ちゃんと一緒にいた誰かのことは、全部消えてるんです…』

男「俺と一緒に…いた?」

妹友『私、大切な誰かのことを忘れちゃってる…絶対に誰かがいたはずなのに…』

妹友『だから、思い出さないと…って思ってたときに、男さんの電話番号を見付けたんです』

男「…俺と一緒にいた…大切な人?」

妹友『男さん…私が忘れている誰かのこと…覚えていませんか?』

男「……。」

妹友『たぶん