今から13年前の夏の早朝、我が家の玄関ドアの前で鳴くか細い声。
開けてみると、ガリガリに痩せた狐のような顔をした白い猫がいて、何の抵抗もないかのように家の中に入ってきた。
それが現在家族として暮らしているタマとの出会いだった。
タマは家にいるときは二階にある私の部屋を拠点として過ごし、寝るときも私と一緒。
いつも門の前で私の帰りを待ち、部屋に入ると膝の上で寛ぐ。
それがタマと私の日常だった。
が二年前、私の隣の部屋に娘が移って来て、娘の愛猫ユニチャンの生んだ子供達が成長するにつれ、タマの足はだんだん私の部屋から遠のいていき、その後全く上がっては来なくなった。
娘の部屋と私の部屋は二間続きで、猫たちが自由に遊べるように仕切りの戸を開け放してあるため、自分以外の猫が同室に存在する事になる。
~子猫達に自分の居場所を奪われた!~
タマからしたらそんな気持ちだったのだと、思う。
夜中帰って来なかったり、帰って来ても大概は台所や浴室でポツンと座っている。
私が台所仕事をするときにはジッとそばにいて、作業が一段落するのを待ち、手が空くと抱っこをせがむ。
抱き上げるとゴロゴロ喉をならし、離れたくありませんというように、しがみついてくる。
何度か抱いたまま二階の私の部屋に連れて行ってみたが、牙をむいて怒りすぐに階下へ降りていってしまう。
それをした後は、私が近寄って頭を撫でるだけでも、「フーッ」と言って怒り出す。
そんな日々が1年半続いた。
そして今年の夏。
タマは急激に痩せ、顔付きも生気がなくなった。
心配になってヒーリングを受けたり、エッセンスを使ってみると、落ち着いた感じにはなる。
体調が悪いのではなく、精神的なもののように思えた。
ある日、何時ものように暗い浴室で、淋しそうに長い時間座っていたタマ。
(もう13才だし、この子にこんな思いをさせたまま逝かせる様なことになったら、私は一生悔やむ)
そう思った私は、タマがまた怒ることを承知の上で、再び私の部屋に連れて行く事にトライした。
階段を上る段階からもう、牙をむいて怒っている。
が、しかし部屋に入ると怒ってはいるけれど、今回は逃げようとはしなかった。
近寄って来る猫たちに威嚇はするけれど、私の膝からはおりない。
その日の夜は私の布団の上で眠りについて、家族皆を驚かせた。
そしてもっと驚いたのは、私と共に寝るようになった三日後、私が連れに行かなくても自分から階段を上って、部屋に来るようになった事。
日中私が居ないときでも、他の猫たちと共に部屋にいられるようにもなった。
決して仲良くはしないし、近寄って来ると相変わらず威嚇はしているけれど、喧嘩もしない。
適度な距離感を保っている。
あんなに同室を嫌がっていたタマにしたら、凄い勇気。
大きなブロックを壊したんだなと思う。
「タマのブロックが壊れたと言うことは、お母さんの何かのブロックが壊れたんだよね」と、娘。
自分の何が壊れたのかは自覚がないけれど、タマの姿が示すのはそういう事だ。
お天気のいい今日はタマも外遊び。
外に飽きたら階段を駆け上がって帰って来て、また私の膝を陣取るだろう。
足が痛くなっても我慢して、タマの気が済むまで抱っこしてあげよう。
甘えられずにいた時間を取り戻してあげることが、辛いときも苦しい時もずっとそばにいて支えてくれたタマへの、私に出来る恩返しなのだから。