
「生成り」は(きなり)とも(なまなり)とも読めるが、この二つは大いに異なる。
「生成り(きなり)」は生地のままで飾り気のないこと、脱色や染色加工をしていない糸や布のことだが「生成り(なまなり)」は未完成で、まだ十分になりきっていないこと、そのさま、である。
能の世界では、女の怨霊に用いる面のひとつに「生成(なまなり)」がある。角が生えかけた般若になる以前のお顔だ。
女の怨霊、女の怒りを表した面が、どのくらい怖い顔つきなのかは文章だけでは判りづらい、と思い「生成」と「般若」を写真でご紹介する。




女の怒りについて「夢のひとしずく・能への思い」著・粟谷明生にも書かせていただいたが、能面ではその怒り加減で段階的に3~4種に分けられる。
まず顔色が赤色と白色に分かれ角はまだ出ていない「橋姫(はしひめ)」。次に小さな角が出てしまった「生成(なまなり)」だ。
そして眉間に皺を大きく寄せ立派な角が出てしまった「般若(はんにゃ)」。最後には「蛇(じゃ)」となるが、ここまで来るともう人ではなくなるから別格だろう。

父が昔、~~女房の怒りも「橋姫」のうちはまだどうにか許してくれるだろうが、しかし「生成」になったらもうオシマイだ。手遅れになるから、気をつけなければ~~、と。
とにかく怒りの表情に笑みが見えたら、もうアウトらしい。
恐く、怖ろしい心に残る忘れられない言葉だ。
文責 粟谷明生
写真 撮影 粟谷明生