他県の実家で一人暮らしの母が敷地内で転倒し、背骨と足首を骨折して入院した。なので、私は週に一回、実家の換気がてら面会に行っている。
ある朝、入院している病院から電話があった。昨晩から母が不穏になり、ベッドで安静が必要なのにベッドから降りて歩き回り、話が通じない状態だという。
本人と電話で話すと、ここは怖いところだ、みんなで私をだましていた、こんな怖いところから逃げようと、死んでもいいから飛び降りようとした、と言う。妄想が強く、とりあえず本人を否定しないように対応するというセオリーでやってみたが、相づちにさえ突っかかってくる始末で攻撃的で手に負えない。これ、せん妄ですか?それとも精神安定剤飲んでるし、妄想とか鬱が強くなってるのかしら?とナースに聞くがわからない様子。とりあえずそのまま向こうで対応していただいたが、電話口で母に「もう来なくていいから!」と吐き捨てるように言われた。
私、往復5時間かけて面会行ってんだけど。
憤りよりもまたか…という虚しさが襲った。
子供の頃から、母親は不機嫌になると真っ暗な部屋にこもって寝ていた。隣室でテレビを見て笑うと、うるさい!と怒鳴られた。母が不機嫌な間は声を押し殺して生活した。
2、3日すると、朝、何事もなかったように、いつも通りの母親、いつも通りの生活に戻るのだ。だが、謝られることはなかった。本当に、何もなかったことになっているのだ。家族皆がそれを演じる。気持ち悪くて、そして行き場のない怒りの感情が静かに自分の中にたまっていくのを感じた。
楽しい気持ちで学校から帰っても、朝はフツーだった母親が、不機嫌に豹変していることはよくあった。不機嫌はいつ来るかわからないのだ。だから、私は何も期待しないし、喜びは続かないという諦めを身につけた。そうしないと、私は疲れて生きていけなかったのだ。
家を離れて一人暮らしをすることで、やっと母親との距離をとることができ、多少関係が良くなった。
結婚して、夫の実家が優先になったことはムカついたけど、実家にあまり戻らなくていい口実にはなった。
しかし、父が死に、母一人になり、そうも言ってられなくなった。正直、面倒なんてみたくない。しかし、弟がよく見てくれていたので、私が一人離脱するわけにも行かず、月に何度か帰るようになった。
それでも、昔にくらべたらマシな関係を保ててると思ったのだけど。
数日後、病院に面会に行くと、やはり何事もなかったように、来てくれたの、と母親が話しかけてきた。
ほらね。
やっぱりこうだ。
人に感情をぶつけるだけぶつけて痛い思いをさせて、自分はスッキリして謝りもせずにフツーに話しかけてくる。
いい加減にしてよ!
私はひきつりながらもなんとかフツーに話した。
でも、子供の頃の感情が蘇ってきてつらくなり、口実をつけて早めにきり上げた。
せん妄だったのかもしれない。
でも、されてること、言われてることは昔されたことと同じと感じてしまう自分がいる。
私、もう50代なのになぁ。まだだめかぁ。
けれど、私はもう、母を大切に思えない自分を責めない。子供の頃の自分の気持ちを大切にしてあげるのだ。まだ解決できていない、私の中の子供の頃の感情を。
私は、私の人生を生きているのだから。