先日、相談にお越しいただいたAさんが、
笑顔で再び訪問して来ました。
Aさんは、先日お父様を亡くされ(お母様は10年前に他界)、
相談をお受けしている方です。
相続人を調べてみると、先妻との間に子(B)がいることが判明したのですが、
家族の誰もその存在を知りませんでした。
Aさんにとって姉に当たるわけですが、
なんせ寝耳に水のことで、どうしていいかしばらく悩んでおられました。
幸い、Bさんの住所地は県内でしたので、
相談の末、Aさんは思い切って訪問してみることにしました。
Aさんには弟がいます。
相続人は3人と言うことになります。
父の遺した遺産は、在住している土地、建物、預貯金が少々。
もし、相続分を主張されれば1/3は渡さなければなりません。
『とにかく、訪問して、話をしてきます』と言ったのが2週間前。
どんな話になったのか、
その前に、会ってくれただろうか、
Bさんは、理解のある人だろうか、
Bさんの家族は、理解のある人だろうか、
いろんな妄想の中、私は、Aさんからの連絡を待っていました。
そうしたところの、笑顔で事務所にいらっしゃったわけです。
『いい話しができたようですね』
私は、Aさんに話しかけました。
『はい、ありがとうございます、思い切って訪問してよかったです』
そしてAさんは続けました。
『家の前に行くと、一見迫力ありそうな旦那さんが玄関を掃除してました、
恐る恐る事情をはなし、奥様の在宅を訪ねると、一瞬顔色が変わったんです。
帰れ、と言われるかと思いました。
でも、どうぞ中へ と座敷に通してくれました。
奥さんも台所から現れて、「よくぞ訪問してくださいました」と言ってくれました。
実は、新聞のお悔み欄を見て、父が亡くなったことを知っていたそうです。
弟がいることは知らなかったみたいですが、
顔も知らない、戸籍上の名前でしかしらない父を、
60年間以上ずっと想像し、
いつか父の話を誰かから聞ける日が来ることを願っていたそうです。
いまは孫もいるし、旦那も優しく家族を支えてくれている。
平凡だけど幸せに暮らしているし、
相続は受けるつもりは全くないとおっしゃいました。
相続とか財産がどうとか言うよりも、
長年父を支えてくれてありがとう、父を看取ってくれてありがとう と、
逆にお礼ばかり言われました。
今日、こうやって、あなたが紳士的に訪問してくれたことが、
何よりも嬉しいと、涙を流して喜んでくれました』
Aさんは、Bさん宅への訪問をこのように話してくれました。
Bさんも想像をはるかに超えた展開に一緒に涙を流したそうです。
30分程度、会話の様子を聞いた後に、
では、Bは何も取得されない形でよろしいですか?
と、私がAさんに聞くと、
Aさんは、
『いや、1/3は、渡したいのです。
父も長年に渡り、Bさんのことは心配だっただろうし、
父の代わりに、私がBさんにしてあげられることは、
恥ずかしながら、これぐらいしかないですから』
どちらも心が透き通った人同士の相続は、
こんなにも美しく展開していくものです。
憎しみや恨み妬みのない、そんな心で相続を迎えられれば、
きっと争う余地はないはずです。