今年の夏は猛暑が続き、コロナ感染の心配もあって家に閉じこもる日が続きましたが、なかなか読書に集中することも出来ず無為に日を重ねていました。九月も半ばを過ぎて秋の気配が漂い始め、漸く買い置いた本を手に出来るようになり、朝日新聞出版の「地図で読むアメリカ」を読了しました。
「地図で読むアメリカ」とはどういう事なのだろうかとの興味で手にした本だったが、アメリカ発展の歴史をその地理的条件と関連させて説いており、新しい角度からの見方が新鮮で面白かった。
(朝日新聞出版、早稲田大学教授ジェームス• M・バーダマン、森本豊富 共著 定価1,700円)
アメリカを東から西まで地政学的に10の地域に分けている。
1) ニューイングランド地域 (ヤンキー発祥の地)
16世紀末から17世紀初頭にかけて旧世界から自由を求めてやって来た、ピューリタンたちの理想郷
から始まり、ボストンのアイビーリーグなど、エリート教育の地となり、工業都市発祥の地でもある。
ヤンキーの「勤勉さ」「清廉さ」は、この地域の自画像である。
2) メトロポリタ:ン・ニューヨーク地域
ハドソン川を北上すると五大湖に通ずる内外貿易の拠点となり、2,000万人を超える人口を抱えた
「世界都市」であると共に、米国資本主義の中心地である。世界中から移民や難民が集まる多民族
混交の文化圏であり、居住者の四分の一以上が外国生まれである。
3) アパラチア地域
南北に連なるアパラチア山脈が西へ向かって開拓を進めた初期移民の壁となって立ちはだかる。
穀物も育たない不毛の地で、「プアーホワイト」などと揶揄される勤勉で素朴な人々が、後に発見され
開発される地下資源(石炭や鉄鉱石)の採掘現場で働く労働者となってゆく。
4) サウス地域
大西洋からメキシコ湾に沿った低地で沼地が多い。土壌の多くは粘土質で綿とサトウキビ以外の作
物に適していない。貴族主義的な伝統が残るアップランド•サウスとなっての奴隷制に見られる差別
感が根強いテ”ィープ•サウスとで成り立ち、ハイテク産業の一翼を担う地域でもある。
黒人の人口比率が高く、ミシシッピー州やルイジアナ州では30%を超える。
5) インダストリアル・ノース地域
オハイオ川以北の土地は比較的平坦で、トウモロコシ、大豆などの栽培に適している。五大湖から
ハドソン川に至るえりー運河の建設は地域の産業と都市の発展に寄与した。かって製造業のメッカ
であったが衰退し、「ラスト•ベルト」が地域の代名詞になっている。近年、オンラインショップ業者の
大倉庫を提供することで復活の兆しもみえている。
6) ハートランド地域
1803年にナポレオンから購入したフランス領「ルイジアナ」を含む、ミシシッピ川以西の広大な平原
は「ミッドウエスト」或は「ハートランド」と呼ばれる。肥沃なトールグラスの牧草地が延々と拡がり、
トウモロコシと小麦の生産が盛んで、アメリカの「パン籠」と呼ばれる穀倉地帯である。しかし、その
開拓は困難を伴い、トールグラスの根は地下60cmにも達し開墾に多大な労力を要し、灌漑が大き
な問題であった。多くのアメリカ先住民が居住する地域で、その強制移住に伴う紛争が絶えなかった
西側はロッキー山脈に向かって標高が高くなって行き、所謂「西部劇」の舞台となった地域で、今は
小麦の栽培と牛と羊の牧草地が広がっている。
7) アウトウエストとアラスカ地域
ロッキー山脈と太平洋岸に沿った山脈とに囲まれた標高の高いアウトウエスト地域は作物の栽培
には適さず、牧畜も水源の確保が大変だった。しかし、この地域には金、銀などの鉱物資源が潤沢
に眠っており、1848年から49年にかけてのカリフォルニアでの金鉱発見を端緒とするゴールド
ラッシュで全米各地から多くの人々がカリフォルニアを目指した。
アラスカは1867年ロシアから購入された、50州中最大の面積を持つ州であるが、気象条件が厳し
く、農業はおろか人の住むのも困難な土地で、地下資源は国家に管理されている。
8) パシフィック • ノースウエスト地域
太平洋北西地域は西から吹く風が起伏の多い山脈あたり多雨をもたらし、カリフォルニア北部のナパ
バレー、ソノマ、コロンビアリバー流域はぶどう園が拡がり、ワインの産地となっている。
ハイテク産業の最先端を走る地域であると同時にアジア移民のゲートウェイ都市がある地域で太平洋
を挟んだアジアに目が向いている。
9) サウスウェスト地域
晴天が続き降雨量の少ないこの地域は、ロッキー山脈を水源とするコロラド川に多く依存している。
カリフォルニア内陸部は農作物、果物の栽培が盛んで、水の確保が死活問題である。
18世紀初頭までスペイン領であったこの地域はメキシコからの移民とアジア系移民の存在感が大きい
テキサス州は世界のエネルギー資本の一大拠点であり、医学、エレクトロニクス、宇宙、工学、金融面
で顕著な発展を遂げている。
10) ハワイ地域
ハワイ諸島は海底プレートの移動によって出来た火山列島である。年間を通じて温暖な気候に恵まれ
太平洋の楽園と言うイメージが強い。ハワイ島のマウナケアの山頂には世界の天文台が終結している
1980年代の後半、ロサンゼルスに四年間ほど駐在している時、よくレンタカーを借りてアメリカ中を走り回ったが、改めて地図を眺めると、広大なアメリカのほんの一部分を走っただけなのが分かる。
ロサンゼルスから出発してカリフォルニア州、アリゾナ、コロラド、ネバダ、オレゴン、ワシントン州を走り、ニューヨークから北上しマサチューセッツ、ニューハンプシャー、メイン州を通ってカナダ国境まで行った。
フロリダ州ではマイアミからキーウエストまで約300kmにわたり、点々と連なる島を結んで自動車道が貫き通る。その道路を走るのはまるで海面を滑走している様な爽快さで、忘れ難い思い出となっている。
「アメリカの心」と言われる広大な「ハーランド地域」ではシカゴ、セントルイス、ニューオーリンズの市街地を歩き廻った。特にセントルイス市のミシシッピー河畔に建つ「ゲートウエイ•アーチ」の展望台から眺めた360度見渡す限り真っ平な大平原の眺望は、今も強い印象として残っている。これらを含めても歩けたのは全50州中の15州でしかない。アメリカは都市部よりも自然が残る郊外が素晴らしかった。
「地図で見るアメリカ」を読んでみて、改めてアメリカの多様性に目が覚める思いである。
