「よく分かりました。素晴らしいですね、エドマンド・バーグも先生も」
金山が、感銘を受けたかのように、上ずった声で言った。

最後の先生ていうのは、私のことだろうか。一応なんか言ったほうがいいか。
「いや、なに」
聞こえなかったのか、誰も反応しない。
「そんなおべんちゃらはいいの。エドマンド・バーグは偉いけど、私は何も偉くないわ」
そうか、美代子のことだったのか。

「先生、それほど見識がおありだったら、政界へ打って出たらどうですか。僕たち応援しますよ」
金山が思い切ったことを言う。
「そうですよ、やりましょう」
「やろう、やろう」
酒井、大口が口々に言う。すると、突如、ミケが座布団から飛び出して、美代子のまわりでニャーニャーと鳴き出した。

「あら、ミケも賛成なの」 
「ニャー」
「いいぞミケ」
「お猫様も太鼓判だ」
「おめでとうございます」
皆が声を上げる。
美代子がミケを抱き上げ、右手で3人を制するジェスチャーをした。皆だまる。

「いきなり国政は無理よ」
なんだって!やる気満々じゃないか。

「イギリスでは、地方政治は民主主義の学校と言われているの。まず地方からやりたいわ」

とたんにあることが閃いた。
「そうだ!」
大きな声を上げた。
「町内会長から、会計のやり手がいないので、奥さんどうかと言われてたんだ。どうだい」
一瞬冷たい空気が流れ、殺気を感じた。

「それじゃ、みんな、もうすぐ市長選がはじまるから、協力してくれるかしら」
なんだ、私は無視か。

「もちろんです」
「協力します」
「万歳!」

その時、夜が白々と明けてきた。
「あら、夜が明けちゃったわ」
「そうだ、これからうちで朝ご飯を食べて、市長選に勝つ作戦会議をしませんか。昼の弁当を作り始める頃ですから」
大口の提案に、美代子が
「ご迷惑じゃないかしら」
と尋ねる。
「全然です。それに両親とも、今の市長が大嫌いですから、大歓迎です。お猫様の食べ物もありますよ」
「ニャー」

皆出て行った。

私は寝るとしょう。夢なら覚めないで欲しいものだ。

終わり。