「はははは」
突然、誰かが大声で笑った。大口だった。

「宗匠、この記述、面白いですよ」 
まだ私を宗匠と呼んでくれるのは嬉しいが、妻の手前もあり、苦虫をかみつぶしたような顔をした。
「どれどれ」
大口がその項を指し示した。

《初等科六年の時のことである。元気一杯で悪戯ばかりしている仲間が、三島に「おいアオジロ――彼の綽名――お前の睾丸もやっぱりアオジロだろうな」と揶揄った。三島はサッとズボンの前ボタンをあけて一物を取り出し、「おい、見ろ見ろ」とその悪戯坊主に迫った。それは、揶揄った側がたじろく程の迫力であった。また濃紺の制服のズボンをバックにした一物は、その頃の彼の貧弱な体に比べて意外と大きかった。— 三谷信「級友 三島由紀夫」
「あなたたち、いい加減にしなさい。そここれからいう話と関係ないわよ」後ろで美代子が両手を組んで仁王立ちしていた。「ここ、ここを読みなさい」美代子が大声を上げた。