「三島の劣等感というのはね、戦争に行けず、というか、勇ましいことを書いたり、言ったりしていながら、結局、戦争に行けなかったか、行かなかったか、家族が行かせなかったかして、同時期に徴兵された人は、多くが激戦地に行かされ、死んでしまったということ、これが心の傷として残り、死者に済まないという気持ち、戦争から還った者に対しては、強烈な劣等感をいだいた、ということよ」

「どういうことでしょうか。もう少し分かり易くおっしゃって下さい、先生」
と、金山。

えっ、先生?先生って、美代子がかあ。なぜなんだ。初対面で、肩書きなんか持っていないのに、金山よ、なぜ先生と呼ぶんだ。私の脳裏に、嫉妬と劣等感が生まれた。

「金山君だったわねえ、私を先生と呼ぶのはやめて。宗匠が複雑な顔をしてるわ」
美代子はそういって薄ら笑いを浮かべた。
「いや、俺はなにも」
そう言うのが精一杯だった。
「おだまり」
美代子の高い声が飛んできた。
「それじゃ、手短に言うわね」
美代子の説明はこういうことだった。