「今生きてる人で?」
「死んだ人でもいいですよ」
金山が言う。
「日本の男らしい、とはどういう意味なのかなあ」
と妻。
「伝統を守っているとか、そう言うことです」
と金山。
「それじゃ、あなたは誰だと思う?」
「ちょっと思い浮かびませんが、三島由紀夫なんかどうですか」
美代子は
「ぷっ」
と吹き出し、ついで
「はっはっはっ」
と大声で笑い出した。
「はっはっはっは」
とさらに笑い続け、
「お腹がよじれるわ。さっき、何の話をしたか、覚えてる?」
と、また聞き返した。
「確か、伝統主義を装ったエセ県議の」
「そうよ。三島由紀夫は、まあその県議とどっこいどっこいよ」
「そうですか~。僕は3、4冊読みましたけど、三島を読んだことあるんですか」
「ないわ」 
「えっ、え~っ、読んで見なけりゃ分からんでしょう」 
金山は不満げだ。
「読んでみなくても、だいたい分かるわ。あなた、篠山紀信の『三島由紀夫の家』という本を見たことある?」
「ありません。そんな本があるんですか」
「インターネットでも、一部見えるわよ」
「それと三島の思想と何の関係があるんですか」
「見たら分かるわ。私は見た瞬間、三島は伝統主義者でも復古主義者でも、民族主義者でも、国粋主義者でもない、と思ったわ」
「どんな家なんですか」
皆、身を乗り出した。