「そうでしょう。それで日本の文化を大切にするとは、よく言ったものよ」
美代子が何度もうなづきながら言う。

「あのう」
大口が恐る恐る聞いた。
「たかが着るもののことが、重要でしょうか」
「ちっとも重要でないわ。だけど、日本の伝統を大切にしよう、日本の文化を守ろうと言っている人たち自らがそれを守ってないことを面白いと思うのよ」

「そうなんです。そう言う政治家のパーティーでも日本酒の樽割りなんてめったにやらないし、乾杯といえばビールかシャンパン。日本酒のリクエストも少ないです」
と、酒井が同意する。

「私の友人で、日本の伝統、文化を大切にしようと言ってる政治家と、お見合いで一緒になった人がいるの。日本文化であるお見合いをしたと言ったら日本の伝統、文化に従ったと言えば聞こえはいいけど、政略結婚ね。で、親と同居するのかと思って、ひやひやしてたんだけど、それはなかったの。それは良かったんだけど、おかしな話よね。年金が少なくなるから、日本の伝統である子が親の面倒を見る同居を訴えているのに、自分たちはそんなことしていないのよ。彼らは、我々庶民にそれを押しつけ、自分たちは、そんなことをする気はまったくない」
「へ~」と3人。
「それでね、2人は家を作ったんだけど、どんな家だと思う?」
美代子の発言が、段々熱を帯びてきた。