「お前、なんでこんなに早く帰って来たのだ。帰って来るのは、あと4、5日先だろ」
恐る恐る聞いてみる。
「どこかの馬鹿のお陰でね。向こうに着いて2泊した後、何でも知ってる奥さんに電話をかけたら、家が大変なことになってると教えてくれたのよ。変な看板掲げているって。あんたのことだから、どうせまた変なことを考えてると思って急いで帰ってきたのよ。おかげで、ほんのちょっとしか見られなかったじゃない。それよりあんた、何ちゅう恰好してるの。まるでチンドン屋じゃない」
着物のレンタル屋に進められて気に入った和服をけなされて、ちと頭に来た。
「何をいうんだ。これは、さる地方の有名歌手が何百万とかけて作らせたものだぞ」
それを聞いて3人が驚いた。
「えーっ、代々の宗匠に伝わっているものじゃないんですか」
「ふ~ん、この人が宗匠ってわけか。ああそうか、猫道っていうのを考え出し、先祖代々つたわっているとか言って、純心な青年たちをだました訳ね」
「いや、だますなんて」
その時バーンと大きな音がした。美代子が身を乗り出して、両手で机を叩いたのだ。