567(最終回)


 江戸・天保年間に江戸の町を騒がした騒乱は、こうして幕を閉じた。だが、江戸町民らは、こうした結末は知らされていない。まさか、南町奉行の鳥居耀蔵が仕組んだ騒動だったとは、幕府はひた隠しにせざるをえなかった。


 そして、遠山も小吉も男谷も、皆、江戸時代に、これについては一言もしゃべらず亡くなってしまった。


 ただ、一人鳥居だけは、明治維新も生き延び、明治元年に恩赦で幽閉を解かれた。その後、東京、駿府と移り住み、最後は東京で、明治六(一八七三)年の秋、大勢の子供や孫たちに看取られて、七十八歳で死んだ。


 鳥居の丸亀藩での幽閉時代は、丸亀藩士らに和漢の知識を教え、薬草を植えて、病の藩士や領民たちに分け与え、藩士、領民らに慕われたという。江戸時代に妖怪と言われ、忌避された面影は、まったくなかった。


(終り)



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