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遠山邸に集まった者たちは、丑三つ時になって、一団となって出て行った。
「金ちゃん、籠にも馬にものらねえのけえ」
「ああ、籠に乗ると体がなまって、早く動けなくなる。馬はましだが、歩いたほうがいいのさ」
「そうけえ」
小吉と遠山だけが口をきいている。他の五人は、黙って歩いていた。
時折、寝ずの番をしている木戸番やら番屋を通るが、
「大目付様のお通り」
と、内山が小さいが、長く声を通して、お目付けと遠山の紋である九字直違紋と丸に二両引きの二つの提灯を見せると、
「ははーっ」
と、奉行所の武士、町民のどちらも声を上げ、武士は、深々と礼をし、町民の方は、ひれ伏している。遠山は、顔が分かるように、侍らの方を見ると、時々顔を上げた者が、確認したというふうにして、うなずいている。
「今月は、どちらの当番だったかのう」
遠山が尋ねる。
「南町でございます」
内山が、静かに答えた。
「そうか、鳥居のところか」
「はい」
それから、半時ほど歩いて、大きな門構えの屋敷に着いた。
遠山が、内山に目くばせする。
目礼した内山が大きな声を上げた。
「大目付、左衛門尉様でございます。門を
開けられよ」
門の内側ですぐ声がした。
「何用でござりますか」
「門を開けられよ。それから御用の向きを申し述べる」
「分かりました。小さい門でいいですか」
「そうしてくれませい」
脇の通用門が開いた。それを見た内山は、
「御用の向きは、御政道を糺すことだ」
と言って、当て身を食らわせると、どーっと門番が倒れた。