そんな折、前広報担当の役員だった長尾から雄一郎に電話があった。現在は、子会社の社長をしていた。
「このまま放っておいていいのですか。保男さんが前面に出て、釈明すべきです。日本のマスコミもうるさくなりますよ」
と、雄一郎に勧めるのだった。
「うん、それがいいか。で、広報の意見は?」
との雄一郎の問い合わせに、長尾が答える。
「私の後任の松川も同じ意見なのですが、他の役員が消極的なのです。おそらく、保男さん大事という発想からだと思いますが・・・」
「そうか、わかった。私から保男に言っておくよ。ありがとう」
そう言って、雄一郎は受話器を置いた。
さっそく、雄一郎は、会社の社長室へと向かった。
「おい、米国の事故からリコールやら問題、お前がマスコミに出て行って説明しなくていいのか」
「はあ。でも、役員が出て行く必要がないというんです。我々が食い止めると言って。私も、マスコミは苦手ですので・・・。彼らに何を言っても、誤解されるだけですよ。まあ、私もうまく乗り切れるかどうか、帰って油に火を注ぐ可能性もありますし・・・」
「うーん、そうか。しばらく様子を見てみるか」
「はい」
「だが、何らかの対応は必要だろう」
「そうですね。設計担当専務の田川さんが、自分が説明すると言ってますので、そうしていただこうかと」
「ああ、そうか。彼なら理論化だし、適任かもしれんな」
「じゃあ、そうします」
なんとなく不安に思った雄一郎だが、役員らがそういうならと、ここは保男の判断に任せることにした。