岩永は、すぐに電話に出た。

 「名誉CEO、どうなさいました」

 「うん、君に聞きたいことがまたできたんだ」

 「なんでしょうか」

 「うちが持っていた桜放送の株、今日売ったのか」

 「はい、名誉CEOもそう言っているからと言われるので」

 「誰がそんなことと言ったのか」

 「若井社長ですが」

 「彼がそんなことを言ってたのか」

 「はい。名誉CEOは反対だったのですか」

 「当たり前だ」

 「そ、そうだったのですか。確認すべきでした。申し訳ありません。若井社長が、中日本電力も売るといっているとか言ってましたし」

 「それは本当か」

 「本当か嘘かは知りませんが、若井社長が言ってました。本当に申し訳ありませんでした」

 「いや、もういい。それより、この話は内密にしておいてくれたまえ」

 それから雄一郎は、中日本電力の飯島会長に電話した。

 「飯島さん、お宅も桜放送の株を売ったのですか」

 「はい、売りました。沖川さんが朝電話をかけてきて、『うちは売るから、君の所も売ったらどうか』と言われたので、売りました」

 「何、沖川が?ですか」

 「はい。ご存じなかったのですか」

 「いやいや、ありがとうございました」

 雄一郎は、トミタの上層部の意見の不一致を知られないために、取り繕った。

 売った株は、イリエモンが買ったのだろう。それにしても、こんな大事な話まで無視されたことに雄一郎は、歯ぎしりするほど頭に来ていた。

<冷静にならねば>

そう思いながら、雄一郎は、時事新聞の佐藤に電話をかけた。


 「佐藤さん、申し訳ない。やはり売っていたよ」

 「そうですか。で、うちのグループに何か不愉快なお気持ちを持っているのでしょうか。創業者と言っているところの婿殿を追い出したのが、お気に召さないとか」

 佐藤は、ずばりと尋ねてきた。

 「いや、私は何も知らされていなかったんだ。だが、このことは内緒にしてほしい。トミタの恥になるから。それから、誤解しないでもらいたい。私は、お宅のグループ内のことには、何の関心も持っていません。桜の株は、ずっと持っておくベきでした。この償いは、きっとします」

 「そう言っていただけると嬉しく存じます。ありがとうございます」


 佐藤とは30分ほど話をして、電話を切った。

 「お父さん、甘いんじゃないですか」

突然、後ろで声がした。いつの間にか、息子の保男が家に来ていた。

 「なんだ、来てたのか。何が甘いんだ」

すこし、ムッとして雄一郎が聞き返した。