秀二の病室に、岩永はぴたりと2時にやってきた。雄一郎も、5分後にやってきた。一通りの挨拶が済んだ後、雄一郎が切り出した。

 「岩永君、今年度の決算予想はどうなるんですか」

 「以前から申し上げているように、アメリカの証券会社の金融不祥事から端を発した不況ですが、ぎりぎりとんとんかと

 「ほう、そうですか」

 「ええ」

 「それを赤字にしてもらいたいのです」

 「えっ、赤字にですか」

 「うん。実際はともかく、とりあえず予想だからね。円ドル相場や、引き当て金を増やしたり、償却を早めたりすれば、できるでしょう」

 「それはできますが。いったい何のためにですか」

 そこで、秀二が口を出した。

 「分かっているだろう。日ごろ君と私で話していることの延長だ」

 「はあ」

と言ったきり、岩永は黙ってしまった。おそらく、これがばれた時のことを考えているのだろう。病室にいる秀二はもちろんだが、雄一郎も、知らぬ存ぜぬを決めるだろう。しかし、今の経営の在り方に不満は、岩永には大きかった。会社を辞めることになるかもしれないが、雄一郎は、子会社に行く世話くらいはしてくれるかもしれない。それに、2人に逆らうことはできない。

 「分かりました。やります」

岩永は力強く応えた。腹をくくったのだ。

 「やってくれるか」

 「やってくれますか」

秀二と雄一郎が同時に、叫ぶかのように言った。

 「はい、さっそく信頼のおける部員を集めて、月曜日から取りかかります」

 「ありがとう」

 「感謝します」

それからしばらくして、岩永は病室を出て行った。

雄一郎も部屋を出た。