「はい、岩永ですが、どなたですか」

 岩永は誰か分からないらしい。雄一郎は今日、秘書に調べさせて、岩永の携帯の番号を知ったのだった。

 「富田雄一郎です」

 「えっ」

 岩永は、訝ったようだった。雄一郎から携帯に電話がかかるのは初めてだった。

 「富田秀二さんではないのでしょうか」

 「いや、雄一郎です」

 「これは、名誉CEO、失礼しました」

 「いや、構いません。私が君の携帯に電話するのは初めてだからねえ」

 「はあ・・・。ところで何でしょうか」

 「うん、君と一度ゆっくり話がしたいと思って」

 「はい。それでは、明日お部屋にお伺いします」

 「いや、会社ではちょっとねえ」

 「はい」

 「君、最高顧問の見舞いに行ったりしていると聞いたが」

 「はい、2、3週間に一度、土日にいずれかですが」

 「じゃあ、今度の日曜日、最高顧問の病室で会わないか。せっかくの休日に申し訳ないが」

 「いや、そろそろ行こうと思っていたので、構いません」

 「分かりました。時間は2時でどうか」

 「はい、分かりました」

 電話を切って、岩永になんと切りだそうかと考えだしたが、秀二に何も言っていないことに気がついた。ただ、時間が遅すぎる。翌日にしようと考えて、風呂に入ることにした。

 風呂の中で、あれやこれや考えたが、ふと、自分があれこれ考えるより、専門の岩永がきちんとしてくれるだろうと考えて、眠ることにした。


 翌日、秀二に、秀二の病室で岩永と会う約束をしたことを伝えた。秀二は、最初、雄一郎が何を考えているか分からないようだったが、そのうち、合点が行ったらしく、

「ハハハ、君もなかなかの策士だなあ」

と笑った。


 そして、日曜日がやってきた。