雄一郎が秀二の病室に入ったら、秀二はベッドの上で眠っていた。看護婦が

 「起こしましょうか」

と、小さな声で呟いたが、

 「いや、大丈夫。しばらく待つよ。君はもういいよ」

と、これまた小さな声で雄一郎は応えた。

 ほどなく、秀二が目を覚ました。

 「なんだ、来ていたのか。起こしてくれればいいのに」

秀二の声は、相変わらず大きかった。

 「いえ、今来たばかりです」

雄一郎が、気を使ってそう言った。

 「今日はなんだね」

 「実は、ちょっとお伺いしたいことがありまして」

 「なんだね」

雄一郎は、沖川と社長の若井の父親が同県人かどうか、また2人がどういう関係か知っているかと尋ねた。

 「そう言えば、沖川と若井の父親は同県人だったなあ。それしか知らない。同県人だったら、長尾もそうだろ。だったら、長尾も怪しいのか」

 「いや、彼は大丈夫です。最近は、まったく沖川君とは会ってないそうです。なんだか警戒しているようだと言ってました」

 「そうか。じゃあ、若井とも同県人という関係だけだろう。いや、ちょっとまてよ。沖川と若井の父親は同じ市の出身かもしれないなあ。そうだ、誰かに聞いたことがあるぞ。うーん、そういうことか。ちょっと待ってくれ」

 そう喋ると、秀二は、突然携帯電話に手を伸ばした。ピッピッピッと慣れた手つきでボタンを押していく。これで、入院していても社内情報を取っていつようだ。

 「ああ、山内くん、ちょっと調べてほしいんだ。沖川君の田舎の住所と若井君の田舎の住所を調べてくれないか。例によって、極秘だよ」

 どうやら、山下というのは人事部長の山下のようだ。

 間もなく、返事が来た。トミタでは、こういうことは、入社時の時点いや、人によっては入社時前の情報も記録されているのだ。

 「ふんふん」

と聞いて、秀二は携帯電話を切った。

 「分かったよ。沖川はM県T市○○。若井の本籍もかつてはそこだった」

 秀二の言葉に、雄一郎は初めて、沖川に敵意のようなものを感じた。

 「2人は、トミタを乗っ取ろうとしているのではないか」

 そんな疑問が、胸の奥底で拡大していくのを感じた。