綾子も、自分の舌を雄介の舌に絡ませた。しばらく、そうしていると、雄介の手が胸に伸びてきた。慌てて、綾子は、口を外した。


 「雄介さん、昼間あんなに疲れていたでしょう。それに、夕食に外食まで連れ出してしまって。相当疲れているはずだから、寝た方がいいわ」


 「うん。でも、今は元気だよ」

 「もうとっくに日付が変わっているわ。向こうでは、1週間くらいいる予定だから、大丈夫よ。疲れは、残さない方がいいわ」


 「わかった」

 雄介は、素直に言うことを聞いた。


 二人は、いつの間にか眠ってしまった。朝、綾子が気がつくと、雄介の姿が見えなかった。バスルームから、湯を出しているシャワーの音がする。バスローブを身につけて、綾子が、バスルームをのぞいた。


 「おはよう」

 雄介が元気そうに声をかけた。

 「おはようございます」

 綾子は、また丁寧な口調に戻っていた。


 「こんなに早く起きて、つらくないですか」

 「何いってるんだい。もう8時だよ」

 「あら、もうそんな時間?」

 「電車で行くの」

 「レンタカーよ」

 「分かった。そろそろ出るから、メシを食おう」

 雄介は、そう言って、準備に取り掛かった。綾子も、あわただしく準備をした。


 朝食後、しばらく二人で近くを散策した。それから、近くのレンタカー屋に行き、赤いオープンカーを借りた。

 「なんというところに行くんだったっけ」

 雄介が尋ねる。

 「アマルフィーよ。夕日がきれいなところ」

 「そうか。いいなあ。夕日がきれいか、今の僕にピッタリだ」

 「私たちでしょ」

 「いや、君は」

 <ガンで、あと半年くらいの命しかない俺に比べたら、君に夕日は似合わないよ>

と言おうとしたが、止めた。

 綾子も、雄介が言おうとしたかったことを察知したのか、その先は聞こうとはしなかった。


 車でホテルに戻った二人は、荷物を車に積んだ。綾子が運転して、車はあっという間にホテルを離れた。