ホテルに戻った二人は、時差ぼけで、眠くてしかたない。部屋に戻ると、そそくさと歯を磨き、綾子は風呂に入った。雄介は、ベッドに倒れこみ、そのまま眠りこんでしまった。


 


 しかし、午前1-2時ごろになると、目がパチリと覚める。雄介が、真っ暗に部屋で、一人目を覚まし、眠れずにいると、ダブルベッドの離れたところで、ごそごそと音がする。ベッドは、日本で言うキングズベッド以上のサイズだ。その端っこで、綾子が寝返りをうったようだ。目が覚めてから眠れないのか、何度も寝返りをうっているのだった。


 「綾ちゃん」

 雄介が、声をかけた。


 「なーに」

 やはり起きていた。


 「君も目が覚めたのかい」

 「ええ」


 「こっちに来いよ」

 「・・・」

 「眠れなかったら、しばらく話をしよう」


 綾子は、昨晩二人は関係を持ったものの、今晩もとなると、末期がんの雄介に負担がかかると思ったのだ。話をしようというので、眠れない方が雄介が疲れる思って、そばで話をしているうちに雄介が眠れるのではないかと、そばに行くことにした。今日、バチカンで雄介がむせ込んだことも心配だった。



 「来たわよ」

 綾子が、雄介の胸のすぐそばで呟いた。


 「ふふふ」

 「あら、何がおかしいの」

 「人生って不思議だなあ、と思って」

 「何が」

 「学生時代、本当は僕は君に興味があったんだ」

 「えっ、そうなの」

 「うん。でも、最初に健三に、君のことが好きだと相談され、健三との仲が悪くなるのを恐れたんだ」

 「友情をとったわけね」

 「まあ、そういえばかっこいいけど、実際は、君の気持ちが分からないし、その先どうなるものでもないと思った。健三とは馬が合ったし、その仲が壊れることを恐れたのかもしれない。思い切って告白しても、だめだったらどうしようかとね。僕は、君の相手にされない上に、健三に知られたら、友達まで裏切ったことになり、彼を失ってしまう、と」


 「あの頃、お互いの気持ちが分かっていればねえ。私も、あなたのことが好きだったのよ」

 「飛行機の中で、そう示してくれたね。お互い好きだったのにね」

 「私、私に興味がある人のことは、もの心がついてから何となくわかるの。女はほとんでそうだと思うわ。でも、雄介さんはさっぱり分からなかった」

 「隠していたもの。その気持ちを出しそうになったときもあったけど、それをぐっと抑えた」

 「ふーん」

 「男はねえ、逆に女の気持ちがさっぱり分からないんだよ。好意を持ってくれてるかと思ったら、次にはさっぱり興味がないようだし。それに、それは女が興味を持っているからではなくて、単なる親切心からだという人もいるからね。だから、女の方が、はっきりしてくれた方がいいと思ったこともあったよ」

 「ははは、それはアマゾネスでない限り、到底無理よ」

 「そうだろうねえ」

 「でも不思議だ」

 「何が」

 「今こうしていることがだよ」


 そういうと、雄介が、キスをしてきた。しばらくして、舌を入れてきた。