合同会議は、1月に2回、2月に1回開かれた。何度も確認事項が申し合わされた。しかし、いつ捜査を行うか、一向に検察側は明らかにしなかった。この間、漏れないはずの情報が漏れ始めた。

アングラ情報誌が、「兼山元議員に新たな脱税疑惑」などという記事を掲載しだした。それが、数誌に上ってから、週刊誌までもが書き始めたのだ。新聞は、まだ書かない。東京地検の検事らは、

 「やれるわけないだろう。一度みそをつけたんだ。証拠もないしなあ。おれたちは、そんなに暇じゃないんだ。何の証拠もないのに書いたら訴えられるぞ。こちらもやる気がないのに、やるなんて書いたら、あんたらを出入り禁止にするぞ。あんたらのお得意の調査報道とやらなら、勝手にやってくれ」

 と、事件隠しにやっきとなっていた。

 そんなとき、国税庁長官の岩田は、財務省事務次官の小島の部屋を訪ねた。

 「だいぶ、世間もきな臭さを感じ始めたようですね」

 と岩田。

 「そうだなあ。ホントのところはどうなんだ」

 「ご報告が遅れてすみません」

 「いや、報告なんていらないよ。事務次官が国税庁長官にいちいち報告させるようでは、事件への介入と思われる。君が来たから、尋ねたまでの話です」

 「はい」

 と言って、岩田は、これまでの経緯を説明し、地検がやる気になったこと、しかし、その後情報が漏れて、地検と国税で漏らした出所を互いに詮索しあっていること、地検が消極的になり始めたことを話した。

 「そうか。分かりました」

 とだけ、小島は言った。

 岩田は黙って部屋を出て行った。

 そんな時に、小島の電話がなった。

 「主計局長がお会いしたいということですが」

 『なんだろう』

 と小島は訝った。主計局長の大薗は、小島の一期下だ。もともと主計がほとんどの事務次官を出してきた財務省において、主税局畑の小島の次官就任は、十年ぶりくらいの久々のものだった。主計の報告は儀礼的なものばかりで、予算案が作成されて国会で審議中とあっては、儀礼的なものさえ無いはずだ。

 『まあ、いいや』

 と、小島は思った。

 「分かりました。今空いているからどうぞ」

 小島が応える。