ある日、2人とも仕事が終わった日の深夜。

私と彼は、車の中にいた。
他愛もない話をしていた時、彼が切り出してきたのは私と彼の間にできた赤ちゃんのことだった。

彼に報告してから約2週間経った日。
私はこの間、敢えて話題には出さず必死に我武者羅に仕事をしていて病院に行くことができなかった。

赤ちゃんをみたら、中絶できなくなる。

私の頭の論理的に考える思考は、ぼんやりと中絶せざるを得ないだろうという決断を出していた。
だからこそ、病院に行くのが怖くていつも入ることすら出来ずにいた。

彼もまた、ずっと考えていたんだと思う。
彼はどちらかというと感情的な人。だけど、そこそこの地位の役職についている彼だから冷静な判断もできない訳では無い。

彼は、言いずらそうに「赤ちゃんのことなんだけど…」と切り出す。


話の内容は、こうだ。
彼なりに赤ちゃんができたと聞いて色んなことを考えた。
彼としては、いずれは私と結婚して子供を作ってという未来も考えていたけれどそれも数年後の話。
まさか、今できてしまうとは…というのが本音。
現段階では、彼自身の仕事が不安定でそこそこの役職である彼は仕事に不満がある中で責任を負って減給されたりもしながら必死なこと。


正直ここまでは予想してた。
彼の仕事が大変なのは、よく聞かされていたし彼が以前に「自信が無い」と言っていた部分が経済面だということもわかっていた。彼は、真っ直ぐで不器用なことも。

彼の話は続く。

そして、私と彼の交際期間が短いこと。
同じ会社に勤めている私と彼の交際自体、本当は禁止である中で付き合っていること。
そんな中で、周りにうちあけたところで誰も祝福してはくれないだろう…ということだった。
つまり、彼は今回は諦めて欲しいと
そう私に遠回しに伝えているのである。


私は、「誰も祝福してくれない」という言葉が酷く胸に突き刺さった。
私の論理的思考は理解していた。


・まだ結婚していないのにも関わらず、妊娠をしてしまった。
・交際期間が長いのであればまだしも、まだ1年も付き合っていない。
・そんな状態では、間違いなく私の両親から反対される。
・彼はそんな両親に噛み付いてでも、産んでほしいという気持ちを持ち合わせていない。
・仕事の環境的にも経済的にも余裕があるとは、到底言えない。(実はこの時、私は彼に数万円お金を貸していた。)
・こんな状態では、産んで育てるにはあまりに不安。寧ろ、親のエゴになるのではないか。


わかってる。
だけど、私は妊娠したとわかった時
複雑でどうしようという気持ちに苛まれながらも大好きな彼との間に子供ができたということが嬉しくて仕方がなかった。
なのに、彼は違った。
彼はきっと焦った。嘘であれと思ったのだ。
職場や親にバレることも怖かったんだろう。
彼は多分、全く喜ばなかったのだ。

この差が、私には辛かった。

私は心の奥底で、もしかしたら最悪の決断をせずに済むかもしれない。彼なら喜んでくれるかもしれない。と思っていたんだろうし願っていたんだと思う。


私は、この時感情を押し殺して論理的思考で返事をした。


私は、彼との子供を中絶をすることになった。